性被害にあってしまった人に適切な支援を届けたい
2021.02.26

「声なき性被害者」を医療と司法でワンストップに支援

福井 福井県済生会病院 性暴力救済センター・ふくい(通称:ひなぎく)
Let’s SINC
性暴力の被害者が十分な支援を受けられるよう、電話相談から医療支援、警察、弁護士へつなげる

性暴力被害は誰にも相談できない人が多い

内閣府男女共同参画局が平成29年に発表した『男女間における暴力に関する調査報告書』では、成人女性の約10人に1人が同意なき性交などの性暴力被害にあっていることが報告されています。この内、警察へ連絡・相談した人の割合は3%にも満たず、約60%は友人、家族をふくめ誰にも相談できずにいます。

「恥ずかしくてだれにも言えない」「思い出したくない」と一人で抱え込んでしまう被害者を救うため、福井県済生会病院にある性暴力救済センター・ふくい(通称:ひなぎく)では、警察や弁護士と連携した医療支援を行なっています。

電話相談だけで終わらず、法的支援につなげる

「ひなぎく」の細川久美子センター長は、「被害者を警察や病院等へたらい回しにすると、つらい思いを何度も呼び起こさせてしまいます。ひなぎくの目的は、これを防ぐことです」と語ります。
会社の上司から性的暴行を受けたA子さんは、労働基準監督署の紹介で来院しました。カウンセリングを行なったところ「泣き寝入りしたくない」と法的措置を希望したため、「ひなぎく」と連携している弁護士を紹介。並行して行なった検査では性感染症が判明したため、引き続き治療へ移行しました。

このように、被害者は「ひなぎく」に相談するだけで、医療と司法の両面からワンストップで支援が受けられます。2019年には、気軽に法的な相談ができる法テラスも院内に設置されました。同院の女性診療センター産婦人科部長を務める細川センター長を筆頭に、臨床心理士や性暴力被害者支援看護職(Sexual Assault Nurse Examiner=SANE)等、4人のスタッフが外部と密に連携を取りながら被害者をサポートしています。

受付時間の拡大で相談は約5倍に

「ひなぎく」は2014年4月に開設しました。当時、電話相談の受付時間は平日8時半~17時でしたが、県の要請を受け、2018年7月から受付時間を24時間365日に拡大。1年間の相談件数は、前年度の約5倍の223件まで増加しました。
夜間は委託業者が相談応対をし、妊娠や性感染症の危険がある場合など、緊急の対応が必要な場合は同院または連携病院を案内。救急外来へ連絡し、受け入れ準備を整えます。相談内容や対応について、必ず「ひなぎく」スタッフに共有され、スムーズに診療へ進みます。
「夜間は、現在進行中か、ごく最近の被害に関する相談が増えました」と細川センター長。 「さっきまで配偶者に殴られていた、また戻ってきたと、電話中に切られてしまったこともありました」。
「ひなぎく」スタッフでSANEの増永佐智恵さんは、「性被害が多発するのは深夜から朝にかけて。被害直後に診療・処置をして、それからずっと被害者を継続的にケアできるようになりました。また、誰にも言えない過去の性被害のトラウマで苦しむ被害者も、いつでも電話できることで相談しやすくなったのではないか」と、対応時間拡大の意義を語ります。

需要増加に対応した体制作りを

センターの需要は増える一方ですが、センター長をはじめ、スタッフ全員が同院の業務と「ひなぎく」での対応を兼務しています。需要の増加を受け止められる、安定した体制作りが課題です。増永看護師は「即座に対応しきれない場合など、心理的ストレスを感じるケースもあります」と悔しさをにじませます。
細川センター長は「外部への広報活動は積極的な半面、被害者のプライバシーに配慮が必要なため、院内への周知は十分でないかもしれません。工夫しながら院内に情報発信し、応援してくれる職員が一人でも増えるとありがたいです」と語ります。

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