医療的ケアが必要な子どもを地域で支えたい
2021.03.05

普段の生活も、もしものときも。医療的ケア児は地域で支える

三重 医療的ケア児者地域支援連携会議 みえる輪ネット
Let’s SINC
医療的ケアが必要な子どもとその家族が安心して生活を送れるよう、行政と病院や福祉施設が連携し、体制を整える

「医療的ケア児」の支援体制の強化が必要

生まれつきの病気などでNICU(新生児集中治療室)にて治療を受け、退院後も人工呼吸器の装着や痰の吸引、胃ろう(胃に穴を開け、チューブを通じて直接栄養を送り込む方法)など、継続した医療的ケアを必要とする子どもを「医療的ケア児」といいます。入院中と同じ医療的ケアを家でも行なわなければならないため、生活にはさまざまな困難が伴います。また多くの場合、起床時や食事の際、入浴時など、24時間医療的ケアが必要なため、家族の負担も非常に大きい現状があります。災害などのイレギュラーな事態への不安も抱えています。
2016年6月には、厚生労働省・内閣府・文部科学省の連名で「医療的ケア児の支援に関する保健、医療、福祉、教育等の連携の一層の推進について」という通知が出されました。これは、医療的ケア児が十分な医療や教育などを受けられるよう、地方公共団体や各施設に体制の強化を呼びかけるものです。
そんな国の後押しもあり、三重県南部の南勢地域では、2016年10月から当事者・家族・関係者が一堂に会する三重県医療的ケア児者地域支援連携会議「みえる輪ネット」が活動しています。

関係者が情報を共有する「みえる輪ネット」

みえる輪ネットは、重度の障害をもつ子どもの療育を中心とした施設である済生会明和病院なでしこと、同院の非常勤小児科医で、三重大学医学部附属病院小児トータルケアセンターの岩本彰太郎センター長が協力して事務局を立ち上げたことから始まりました。その後、事務局が相談支援事業所や訪問看護ステーション、自立支援協議会などの各組織と、南勢地域の6市10町(松阪市、伊勢市、明和町など)に呼びかけ、ネットワークがつくられました。
みえる輪ネットの主な活動は、各組織や行政の担当者が集まる検討会の定期的な実施です。目的は、医療的ケア児の生活実態を把握し、課題を共有すること。検討会には毎回100~150人が集まり、医療的ケア児の家族が提供する事例を共有しています(現在は新型コロナウイルスの影響によりオンライン開催)。

検討会の様子。医療的ケア児の家族の声を動画に収め、課題を共有する

また、みえる輪ネットが重要だと考えているのが、災害時の支援体制構築です。三重県南部は南海トラフ地震が心配される地域でもあります。そこで、医療的ケア児の家族とみえる輪ネットの関係者が集まり、避難所へのルート確認や津波避難タワーへの避難訓練を実施。準備も含めた訓練の様子を動画で撮影して課題を可視化し、検討会で共有しました。

関係者と家族による津波避難タワーへの避難訓練の様子

家族からは、「みえる輪ネットを通じ、私たちの存在を身近に感じてもらえるようになった」「家族の防災意識が向上した」といった声が上がっています。

行政との連携が必要不可欠

みえる輪ネットの強みは、病院や福祉施設などの民間組織と、行政との連携がとれていること。地域でのネットワーク作りには、行政の協力が必要不可欠だからです。国により通知が出されたことで、みえる輪ネットの活動は各市町の福祉計画に盛り込まれています。
これまで、病院が主導して行なってきたみえる輪ネットですが、地域のネットワークのさらなる拡大・定着のため、行政が主導する形に移行しつつあります。運営資金も、各市町の負担にて確保。検討会の会場も、当初は済生会明和病院にて開催されていましたが、現在は南勢地域の各地で巡回開催されています。
みえる輪ネットのように、医療的ケア児支援のための関係機関の協議の場を設置している市町区村は、全国で約7割(2019年8月時点)。この数は1年間でほぼ倍になっており、医療的ケア児への支援が急速に広がりつつあることが分かります。これからも、行政が積極的に民間組織と連携し、情報共有や制度の構築を進めていくことで、医療的ケア児が安心して暮らせる社会の実現は近づくのではないでしょうか。

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