障害をもつ人の力を引き出し、生活を手助けしたい
2021.03.26

リハビリの知識を生かし、身体障害をもつ人の生活を支える

Let’s SINC

医療と福祉が連携し、障害をもちながらも十分なリハビリを受けられない人々に、体を動かす機会を提供する

障害福祉サービス事業所がリハビリの場に

身体障害をもつ人のうち一定数は、脳性まひなどが原因で、小さいころから筋肉のこわばりや運動機能の障害をもっています。彼らは、中学校・高校までは療育施設などでリハビリを受けられますが、学校を卒業すると多くの人が医療的なリハビリを受ける機会を失ってしまいます。卒業後に移る就労施設では医療機関との連携が不十分で、医療的なリハビリを受ける体制が整っていないことが多いためです。
また、病気や外傷によって病院でリハビリを受ける場合でも、「標準的算定日数」と呼ばれる実施期間の制限があり、中にはリハビリが不十分だと感じ困っている人もいます。
石川県にある済生会金沢病院では、2010年10月から生活困窮者支援事業「なでしこプラン」の一環として、障害福祉サービス事業所「ひろびろ作業所」を訪問する「リハビリテーション技術支援事業」を開始。医療サービスから取り残されがちな利用者さんとの交流を重ねながら、日常生活にリハビリのノウハウを取り入れるコツを提案しています。プロジェクトの中心メンバーである、リハビリテーション部長・医療福祉相談室長の岸谷都さん(トップの写真右)にお話を伺いました。

制度からこぼれ落ちてしまう人をサポートしたい

金沢病院から車で約30分。「ひろびろ作業所」は、金沢市を流れる2大河川の一つ、犀川(さいがわ)沿いの自然豊かな場所にあります。養護学校を卒業した脳性まひの人をはじめとする、心身に障害をもつ人々が、製品の加工などの軽作業を通して、工賃をもらいながら就労訓練を受けられる「就労継続支援B型事業所」です。主に、機械類の整備に必要な工場用の布巾をカットする「ウエス加工」などの作業をしています。

ウエス加工をする利用者さんの様子
ウエス加工をする利用者さんの様子

作業所の利用者さんのご家族が、金沢病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)に「就労施設でも専門的なリハビリや医療のアドバイスを受けられないか」と相談をしたことから、同院と作業所の関係は始まりました。関係を続けるうちに、作業所が「生活動作の指導や関節のこわばり・姿勢の変形防止などの取り組みにリハビリの専門技術を生かしたい」と希望したことで、「リハビリテーション技術支援事業」が開始されました。具体的には毎月2回、金沢病院の理学療法士や作業療法士が作業所を訪問し、スタッフの相談に乗ったり、リハビリの専門技術を生かした利用者さんとのかかわり方をアドバイスしたりします。
岸谷さんは「脳性まひの人々は子どものころから障害があるため、身体の変形が進んでも『年をとったら仕方ないじゃないか』などと見過ごされがちで、医療とは縁が切れてしまう。このように、医療と福祉の制度のはざまからこぼれ落ちていく人をなんとかしたいと考え、支援を申し出たのです」と語ります。

利用者さんだけでなく、職員への効果も

作業所でのリハビリは、病院で行なう治療を目的としたものとは異なります。診断名や病歴を見て必要な動きを見極めたり、明確にゴールを設定してプログラムを組んだりするのではなく、あくまで介護や生活の中の困りごとの解決にリハビリ技術を生かせるよう、指導員の方にアドバイスしています。具体的には、日常生活動作の改善や効果的なストレッチ、発語や嚥下障害へのアプローチなどを提案しています。

訪問した金沢病院の看護師が利用者さんのフットケアを行なうことも
訪問した金沢病院の看護師が利用者さんのフットケアを行なうことも

こうした支援の結果、利用者さんの姿勢がよくなったり、作業効率が上がったり、構音障害(正しく発語ができない状態のこと)の利用者さんの発語が改善したりといった効果がみられました。
職員にもプラスの効果がありました。金沢病院の職員からは「仕事の視野が広がった」「さらに深く障害を考えるようになった」と、作業所の職員からは「最初は『病院の専門職が来る』と身構えていたが、今では気軽に話しかけていいんだ、同じ目線に立って利用者さんのことを考えればいいんだと分かり、良好な関係が築けている」と、それぞれから喜びの声が届きました。

福祉の現場にもっと医療の力を

ひろびろ作業所のように、障害者に就労の機会を提供する福祉の場に、専門的な医療知識やリハビリの技術が生かされることは重要だと岸谷さんは言います。
「症状の進行を止めることは難しくても、今までできていた作業をできるだけ長く続けられるように支援を続けていきたい。その人たちが持っている力や可能性をもっとうまく引き出すことに努めたいと思います」
医療と福祉がうまく連携することで、制度からこぼれ落ちてしまう人々を支援する。そんな「誰ひとり取り残さない」支援のモデルとして、これからも金沢病院とひろびろ作業所のかかわりは続きます。