がん治療から就労までサポートする「支える医療」
がん患者さんにとって、悩みや不安の種は尽きないもの
医療の進歩により、治癒率が着実に上昇しているがん。しかし「不治の病」というイメージはいまだに根強く、がんの診断を受けた患者さんにとって、その衝撃は計り知れないものです。
多くのがん患者さんの悩みに寄り添う「がん相談ホットライン」(公益財団法人日本対がん協会運営)によると、2019年度に寄せられた1万1098件の相談件数のうち、「症状・副作用・後遺症」(26.4%)や「治療」(18.0%)、「検査」(5.8%)など医療面の相談のほかにも、「不安などの心の問題」(24.2%)や「家族・周囲の人との関係」(5.1%)、「医療者との関係」(5.1%)、「就労・経済的な負担」(2.6%)といった、多岐にわたる相談が寄せられています。
がんになると、治療のことはもちろん、闘病中の生活やお金のことなど、さまざまな不安や悩みが生じます。医療者はどのようなサポートをすべきなのでしょうか。
がん患者さんのあらゆる悩みに寄り添う「よろず相談室」
2018年に策定した第3次がん対策推進計画で「がん患者とその家族の安心できる暮らしの支援」を掲げた静岡県。静岡済生会総合病院(静岡市)でも「支える医療」に注力。主治医に加え、緩和医療科や精神科の医師が早期から携わり、痛みや不安を和らげるための治療を行なっています。
さらに同病院では、がん患者さんが抱える多くの悩みをワンストップで相談できる「がんトータルケアセンター」を、2018年10月に開設しました。このセンターは、がん治療による副作用や闘病中の食事のあり方、リハビリテーションのほか、就労や医療費に関することまで、「どこに相談したらいいのか分からない」という患者さんの悩みに応える、いわば「よろず相談室」のような存在。看護師や薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー(MSW)といった各専門家が、情報提供やアドバイスを通じて、あらゆる悩みを解決まで導きます。
同センターにがん化学療法看護認定看護師として勤める朝日恵美さんは「患者の希望を支えるには、主治医・医療ソーシャルワーカー・往診医を中心としたチームが家族や職場も交え、連携して全人的な医療・ケアを実践することが不可欠」と語ります。
併設のアピアランスケアサロンは、化学療法、放射線治療、手術による外見の変化などを原因とする、患者さんの不安や苦痛に対応する場所です。
外見の変化によって「自分は特別な存在になってしまった」「治療中は特別なことをしなければならない」という思いを抱く患者さんに、今まで通りの自分で十分対処できることを実感してもらい、対処できないことがあれば、医療者がともに対処法を考えます。
2018年から2020年にサロンを利用した患者さんの相談内容は、頭皮の脱毛、眉毛の脱毛、皮膚障害、爪障害、乳房切除後の整容方法などでした。ウィッグの提供に加え、脱毛過程での洗髪方法、眉毛の描き方、背中にできた皮疹への軟膏の塗り方、爪の切り方やテーピング方法、身近なものを利用した乳房手術後の補正方法など、患者さんと話し合いながらケアを行なっています。
患者さんからは「不安がなくなり前向きになれそう」「突然の事でパニックになったが、自分に必要な物が準備できた」などの意見が出ています。
隔月で開催する「がんサロンなでしこ」では、同じがんの経験やがん治療等に関する悩みをもつ人たちが集い、対等な立場で話を聞き合います。自分らしく振る舞える居場所をもつことも、がん治療を前向きに進めるためには欠かせない要素です。サロンでは、栄養補助食品の摂り方やストレッチなどのミニ講座も好評。繰り返し参加する人も増えてきたそうです。
「がん治療と仕事の両立」を、一緒になって考える
また、同センターの特徴として挙げられるのが、がん治療を行ないながら仕事を両立させるための取り組みです。月に1回開かれる就労支援相談会では、毎回2~3人のがん患者さんや長期療養者さんが、治療を受けながら体調に合わせてできる仕事を、ハローワークや病院のスタッフと一緒になって考えます。
患者さん自身で治療状況をうまく伝えられない場合は、希望に応じて医療ソーシャルワーカーが同席。患者さんに代わって、就労可能な時期や雇用者に知ってほしい情報などを説明します。
「がんは長く付き合う病気になってきています。自分らしい生活や生きがいのためにも社会とのつながりは大切です」(患者さんをがんトータルケアセンターにつなぐ相談窓口である、地域医療センター副センター長の鈴木雅子さん)。
がん治療はもちろん、闘病中に生じるさまざまな不安や悩みを一緒になって考えてくれる、静岡済生会総合病院の「がんトータルケアセンター」。こうした包括的な支援の仕組みが広がれば、より多くのがん患者さんが抱える不安や悩みを減らせるのではないでしょうか。