がん治療中も食事に楽しみを!
2021.07.21

がん治療中も「食べる楽しみ」を。食で治療と生活をサポート

岡山 岡山済生会総合病院
Let’s SINC
管理栄養士を中心とした多職種連携でがん患者さんを入院前~退院後まで食の面から支える

患者さん一人では続けづらい食事療法

がん治療において食事は、体力や免疫力の増強を図る上で欠かせない要素です。特に手術や化学療法を控えた患者さんは、入院前から治療に備えた体力維持のための栄養改善が必要といわれています。

しかし、普段の生活で何をどのように食べればいいのか、患者さん自身で判断するのは難しいもの。体のつらさもあり、食事がうまくとれず苦痛となってしまうこともあります。
そんな中、岡山済生会総合病院では入院前から退院後まで、多職種で連携してがん患者さんの食をトータルにサポートする取り組みを行なっています。今回はその中心を担う管理栄養士にスポットを当ててご紹介します。

がん治療中でも患者さんの「食べる喜び」を守る

「当院栄養科では『食はただ栄養を取り入れるだけではなく楽しみのひとつである』という考え方を大切にしています」と話すのは、管理栄養士の大原秋子さん。
時には、栄養補助食品を上手に活用するなど、柔軟な考え方を取り入れるのが同院の特徴。「ドリンクタイプのものを飲み込みやすいゼリーやさっぱりとしたシャーベットにすることで食べやすさが増すんですよ」
簡単なひと手間で食べやすくできるアイデアや、普段の食事にプラスしやすい豆腐料理や茶碗蒸し、佃煮のレシピなど、飽きずに栄養強化を図る方法も提案し、体力面はもちろん、気持ちも整えて治療に備えてもらいます。

管理栄養士の大原秋子さん

また、的確なアドバイスをするために欠かせないのが最新の医療や栄養情報を学ぶこと。同院では、医師や看護師、管理栄養士などが一緒になって栄養補助食品の試食会を実施しています。
「実際に味が分からなければ、患者さんにアドバイスできません。最近では栄養補助食品の質が上がって美味しいものが増えました。ついつい食が進んでしまいます(笑)」
題して『効率的に太る会』。この会を通じて食に関する共通認識を持つだけでなく、治療のアプローチ法など、多職種間での相談の場にもなっているそうです。

効率的に太る会。味の感想や栄養成分について意見交換

一人ひとりに寄り添い、食べられる工夫を

現在、10人の管理栄養士がICU(集中治療室)・HCU(高度治療室)を含む14病棟を分担して担当。管理栄養士が患者さんのベッドを回って食事を観察するミールラウンドや栄養食事指導、カンファレンスにも参加しています。
その際にも患者さん一人ひとりへの丁寧なケアが欠かせないそう。
「治療の影響で食が進まない患者さんには、好きなものや食べやすいものを尋ね、個々にメニューを調整します。患者さんの意向にできる限り添ったメニュー選びをするだけでなく、少しでも食事に楽しみを見出していただけるように器選びや盛り付けにも工夫を凝らしているんです」
退院前には栄養食事指導も実施。市販食品の組み合わせ方や手軽な電子レンジ調理など、調理で疲れてしまわない、“続けられる”食事療法を指導しています。また、患者さんが退院後も安心して療養できるよう電話相談にも対応しています。

地域のがん患者さんの食の悩みにも応える

同院の管理栄養士が活躍するのは病棟だけではありません。
外来の化学療法センターやがん相談支援センターなどとも連携し、化学療法の影響による食欲不振や口内炎、味覚異常といった副作用の相談にも対応。患者さんの悩みに向き合っています。
「ある日、大腸がんの女性患者さんから『調理で疲れてしまって食事がとれない日がある。腸も詰まりやすいので簡単に調理できて消化の良いものはない?』という相談がありました。 
最初は一般的なレトルト介護食を提案したのですが、「年寄りのようで嫌」と患者さんの表情は暗いまま。そこで、薄味ながら栄養価の高い市販離乳食を勧めてみました。すると『これは孫にも食べさせているからよく知っている』と表情が一変。前向きに受け止めてもらえました」
こうした良い結果に結びついた事例はほかの患者さんへの支援にも生かしています。
ほかにも、毎月1回、がん患者さんとその家族を対象にした「サロンさいせい」も開催。患者さん同士の交流やがんに関する学びの場としてだけでなく、がん治療中でも楽しめるお菓子やドリンクなどの提供も行なっています。

サロンでは、レモン風味のパウンドケーキや体力低下を防ぐ栄養素EPAが含まれたジュースなどを提供

がん治療では「○○を食べなさい」「▲▲は食べてはいけない」という情報だけが一人歩きするケースが多々あります。大原さんのように常に最新の医療や栄養情報をキャッチして、入院前から退院後まで患者さんの「食」に寄り添える管理栄養士の存在は、今後ますます重要になるのではないでしょうか。

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