食を通じて子どもたちが安心できる環境をつくりたい
2021.11.10

食を通じて、足立区の「子どもの貧困」に立ち向かう

東京 一般社団法人チョイふる
Let’s SINC
地域の施設や企業と連携し、子どもたちの居場所をつくる
困窮子育て世帯の多い東京都・足立区で、主にひとり親世帯を支援するための活動を行なっている「一般社団法人チョイふる」という団体があります。この団体は、子ども食堂と食品配達をそれぞれ立ち上げた2人の創設者と、多くのボランティアスタッフや支援団体の連携によって運営されています。コロナ禍において活動形態を柔軟に変化させながら、子育て世帯に支援を届ける取り組みを取材しました。

足立区で問題となっている「子どもの貧困」

足立区は23区の中で生活保護受給世帯数が最も多く、5500人以上が児童扶養手当を受給しています。ひとり親世帯をはじめ経済的に困窮している家庭では、ワーキングプアや社会的孤立などさまざまなリスクの連鎖により、“居場所がない”、“将来に希望が持てない”など、子どもを取り巻く環境の悪化が深刻な問題になっています。

そのような状況下で、足立区で子どもの支援活動として始まったのが、柏倉美保子さんが開設した子ども食堂「あだちキッズカフェ」と、栗野泰成さんが立ち上げたフードデリバリーサービス「あだち・わくわく便」です。コロナ禍の2020年夏に二人が出会い、協働で事業を行なう団体「チョイふる」が誕生しました。それぞれの活動を始めたきっかけと、現在までの経緯を伺いました。

「子どもの貧困」を解決するために立ち上がった2人

これまでの活動について語る柏倉美保子さん(写真左)と栗野泰成さん(写真右)

柏倉 「私は海外の貧困問題に取り組むビル&メリンダ・ゲイツ財団で活動をしているのですが、日本の貧困問題に対して何かできないかと模索する中で、子ども食堂を開きたいと考えました。そのようなとき、済生会の松原了理事に出会い、東京都済生会向島病院と協働事業で子ども食堂を実施することになりました。200人が収容できる食堂と最新設備の調理場を持つ足立区の教会『神の家族主イエス・キリスト教会』に場所を提供していただき、2019年4月に『あだちキッズカフェ』をスタートし、月に2回無料で温かい手作りの夕食を提供していました。
しかし、活動を続けて1年後、新型コロナウイルスの影響で子ども食堂を休止せざるをえなくなったため、NPOの仲間とともに子どもたちにお弁当を提供するプロジェクトにシフトしました。そこで栗野さんと出会いました」

多くのボランティアスタッフが調理に参加する「あだちキッズカフェ」

栗野「私は2020年1月から、困窮子育て家庭に食品を配達する『あだち・わくわく便』の活動を行なってきました。小学校の教師やJICA海外協力隊の経験を経て、子どもたちの機会格差をなくしたいという思いからこの活動を始めました。食をツールにアウトリーチすることで、孤立しがちな子どもたちとつながることができると考えたからです。
最初は駐車場を借りて軽トラックの上で食品を仕分けし、10軒ほどに届けていました。でも、すぐに地域で賛同してくれる人々が現れて、仕分け場所として居酒屋を貸していただいたり、食品を寄付していただいたり、活動の規模が大きくなり始めたころにコロナ禍に見舞われ、買い物のために外出することが不安になった、働く場所を失ったなどの理由から宅配の需要が増えてきました。そのようなときに、柏倉さんと出会いました」

柏倉「栗野さんから、子どもたちの家に食品を届けているが拠点になる場所がなく悩んでいると聞いて、『教会で一緒にやりましょう!』と誘ったのです。2人の活動が一体化すると、さまざまな相乗効果が生まれました。栗野さんの持っていた地域のネットワークを共有することで、困窮世帯の情報やつながりが一気に拡大し、子ども食堂に来ていた子どもの家庭環境についても、配達を通じて知ることができました。現在では利用者さんが約200世帯に増え、多数の企業や生産者さんに提供してもらった食品を、ボランティアスタッフとともに月に2回配達しながら、見守り活動も行なっています」

「あだち・わくわく便」の箱詰め作業の様子。駐車場の一角で行なっていた

とある日の「あだち・わくわく便」

「あだち・わくわく便」の活動日は、主に毎月第1・3土曜日です。提供された食品の量に応じて、毎回40~60世帯に食品を配達しています。活動の趣旨に共感し、参加するボランティアスタッフも徐々に増えてきました。2021年9月時点では、職種や年齢もさまざまな80人近くが在籍し、毎回20~30人が参加しているといいます。
今回は、10月のとある日の活動に密着してきました。

とある日の「あだち・わくわく便」
とある日の「あだち・わくわく便」

地域とのつながりをより強く

2021年2月にはより活動しやすくするため、「一般社団法人チョイふる」として団体を法人化しました。しかし、活動を拡大し中長期的に継続していくためには、当然資金が必要で、地域や行政機関との連携が欠かせません。そこで、組織体制を整えていくとともに新たに居場所事業の展開を進めているといいます。
「おもちゃや絵本などを自由に貸し借りできる『おもちゃ図書館』を教会のそばに新設したいと考えています。子ども支援の拠点を作ることで、地域のソーシャルワーカーや行政機関との連携をより深めるきっかけにできればと考えています。地域全体で子どもたちを支える仕組みづくりに貢献していきたいです」(栗野さん)

協働事業を行なう東京都済生会向島病院の職員

東京都済生会向島病院も協働事業として参加。事務部長の笠松英朗さんをはじめ、管理栄養士や社会福祉士などの職員が携わり、新たな支援方法を計画しているといいます。
「1つ目は、食に関する情報の提供です。配達している家庭向けに、管理栄養士考案のレシピ集の作成を考えています。2つ目は、無料低額診療事業のご案内です。子ども食堂が再開した場合は、管理栄養士が協力して献立表の作成にも参画し、利用者さんに食や診療に関する情報を提供していきたいと思っています」(笠松さん)

多くの人や組織のつながりのもと、広がりを見せる支援の輪。足立区の取り組みから、より多くの子どもたちの笑顔が見られる日常を目指して、今日も活動を続けています。

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