まちの発展に必要不可欠なのは、関わる人々の行動力と思い。
小樽のまちを支える人々に、
「100年暮らしたいソーシャルインクルージョンなまち」は
どのようにつくられていくのか聞いてみました。
子どもから高齢者まで、誰もが安心して
住み続けられるまちってどんなまちでしょうか。
高齢化や人口減など、深刻な地域の課題をいくつも抱えていた北海道・小樽市では、医療福祉機関、行政、企業などが力を合わせ、多世代が健康で快適に暮らせることを目指した「ウエルネスタウン」の構築が始まっています。
一人暮らしでも、子育て中でも、家族が増えても、年を重ねても、障害があっても……誰もがしあわせに100年暮らし続けられるソーシャルインクルージョンなまち。
そのために必要なのは、地域に暮らす人の思いや悩みに寄り添い、サポートするための「しくみ」をつくっていくことでした。
小樽で実践している
“暮らす人のためのまちづくり”を
地図で一緒に見ていきましょう!
- ●人口(高齢化率)
11万2961人 65歳以上の人口4万6153人
※高齢化率40.9%。令和2年度現在全国平均より13ポイント高い - ●面積
243.83平方キロメートル(平成26年10月1日現在) - ●ACCESS
札幌まで電車で約30分
新千歳空港まで約70分
まちの魅力ポイント
歴史の深い港町/海や山に囲まれ四季が美しい/新鮮な魚介グルメ/札幌から好アクセス
小樽の課題
高齢化/人口減少/坂が多い地形で山の斜面に住む高齢者が多い。/働き世代の高齢化/死亡率が全国全道に比べ高く健診受診率が低い
受けられるサービスが知りたい
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介護や医療の心配ごとはここに!■地域ケアセンター
地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなど、保健師、看護師、ケアマネジャー、社会福祉士など専門職が連携して地域住民の困りごとに応える相談窓口。24時間電話での相談も可能です。
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健康の不安を気軽に相談■無料健康相談&ちょこっと健診
済生会小樽病院の看護師による「無料健康相談会」は予約不要で毎週火曜日に実施。「ちょこっと健診」では済生会小樽病院にて20分で健診を受けることができ、結果は郵送で自宅に送られます。
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健診が特典付きで受けられる■たるトク健診
小樽市内の死亡率は全国・全道に比べ高く、がん検診や特定健診の受診率が低いという課題があります。小樽市では健康増進計画としておトクに健康チェックができる取り組みを実施中。受診者にはさまざまな特典も。
気軽に相談できる場所がほしい!
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発達が心配な子どもをサポート■きっずてらす
児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問、居宅訪問指導事業を行なう発達支援事業所。重症心身障がい児(者)施設みどりの里の作業療法士や理学療法士など、リハビリ専門職による一人ひとりの自主性を尊重した、発達段階に沿った支援を行なっています。施設内にある屋内遊園地「イカロスの城」とも連携し、運動を取り入れたプログラムも。
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障がいをもつ人の“仕事”を支援■ぷりもぱっそ
障害をもつ人が、一般企業への就職に不安がある、あるいは困難な場合に、雇用契約を結ばずに軽作業などの就労訓練ができる就労継続支援B型事業所。障害や体調にあわせて、自分のペースで働きながら就労のためのスキルを習得できます。「ぷりもぱっそ」では、みどりの里リハビリ専門職との連携でさらに業務の可能性が広げ、一人ひとりの個性に合わせた就労支援を実現しています。
役に立てることはないだろうか……?
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支援する側・される側みんなにメリットを■フードバンク
済生会ビレッジでは小樽の地元企業や農家さんなどから食材を寄贈してもらい、福祉施設などに無償で提供するフードバンク活動を行なっています。食品提供側は食品ロスの解消や地域貢献に、食品の在庫管理などをぷりもぱっその就労支援の一環とするなど、みんなにメリットを生む新しいフードバンクを目指しています。広報活動にも力を入れて参加企業を増やし、さらに取り組みを拡大予定。
家族全員が元気で暮らすためには?
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家族みんなで運動不足解消■ウエルネスチャレンジ
子どもから高齢者まで全年齢層に向けた、運動による生活習慣改善プログラム。「ウォーキングラリー」や毎日+10分の好きな運動を取り入れる「健康チャレンジ」、子ども向けの「キッズチャレンジ」の3コースを用意しています。参加方法は済生会ビレッジ内に設置されたチャレンジカードをゲットして達成後回収ボックスに入れるだけ。チャレンジ達成者には抽選ですてきなプレゼントが当たります。
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職場全体で健康に取り組む■健康経営
健康経営は、従業員が健康に働ける職場をつくることで、生産性や企業イメージの向上、リスクマネジメントなど、企業の成長につながるという考え方。従業員が健康への意識を高めることによってその家族、さらにはまち全体の健康意識の向上が期待できます。高齢化率が高い小樽ではシニア層がキャリアを生かしながらいきいきと働くための工夫も。
それは、「今、まちに住んでいる人の幸せ」を考えることです。
小樽築港地区でテーマとしている「ウエルネスなまちづくり」はまさしく、今地域に住んでいる人のためのもの。そのためには、済生会が住民のニーズにしっかりと合った医療・福祉のサービスを提供していかなければなりません。そして、住民のニーズを汲み取るためには行政や企業との連携が必要不可欠です。行政が地域や住民に対して、どんな問題意識をもっているかをしっかりと理解し、そこに済生会の強みでもある医療や福祉の視点からどうアプローチできるかーーだと思っています。
そして、「まちづくり」とは地域の人やモノ、資源を活かしながら、社会貢献を行なっていくことでもあります。済生会ビレッジのように拠点をつくると、行政や企業とのつながりが生まれ、そこから新たな視点での産業と雇用が生まれます。それは企業や行政にとっても大きな価値となります。誰にとっても良い循環が生まれていくことが本来のまちづくりだと私は考えています。
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北海道済生会 常務理事
櫛引久丸さん
済生会の強みは医療・福祉・介護の総合的なサポート。済生会ビレッジのように地域の人が日常的に使う商業施設の中に家族や健康、暮らしの悩みを気軽に相談できる場があることが、誰もが安心して暮らし続けられるまちに大切なことだと思っています。相談できる場所がいつも利用するショッピングモールの中にあれば、接点も作りやすいですし、病院に直接行くよりは敷居も低い。済生会ビレッジは何でも話せる地域の「よろず相談」のような存在になりたいです。
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北海道済生会 支部事務局
清水雅成さん
済生会ビレッジは地域住民の健康と福祉をより身近な場所で支えるために開設しました。小樽病院の医師や看護師、リハビリテーションの職員など、専門的な知見を活かした無料健康相談なども実施しており、医療ケアの入口のサポートを行なっています。健康促進・予防など、病院とは別角度で健康意識を高めてもらうきっかけづくりができることもポイントです。また、地域の交流拠点としての役割も。きっずてらすの子どもたちが主体となり、地域の人との触れ合いを目的にしたイベントなども企画しています。
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済生会小樽病院 事務部長
五十嵐浩司さん
子どもたちの居場所をつくってあげたい。
きっずてらすが商業施設の中にあるメリットは、地域の人に「身近な存在」だと感じてもらえることです。かかわる子どもにしか支援が届かないのでは意味がなく、子どもの発達に悩む親が相談しやすく、通いやすい環境も重要。それを医療・福祉機関である済生会が行なうことが保護者の安心感にもつながります。
きっずてらすでは、子どもたち一人ひとりの個性と自主性を尊重した支援を大切にしています。子どものできることを少しずつ増やすことが保護者の子育てのサポートにもつながっていきます。私自身、小樽生まれ小樽育ち。小さな頃からウイングベイは遊び場で、来ると必ず誰かに会える場所でした。きっずてらすの子どもたちにもここがそんな居場所になればいいなと思っています。
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発達支援事業所「きっずてらす」
企画課長/認定作業療法士/呼吸療法認定士
小玉武志さん
小樽市の地域福祉計画が掲げる理念“お互いさまと支えあい誰もがしあわせを実感できるまち”は、ウエルネスタウン構想の“身体的・精神的に健康で豊かな生活を支援する”取り組みと通じています。2021年8月、コロナ禍で問題になった「高齢者の孤立」を解決するため、アクティブシニア層をターゲットにした、地域のことがリアルタイムでわかるアプリ「たるCAN!」をリリースしました。もちろん、アプリだけでなく、常設型のリアルな居場所づくりも必要。情報発信と同時に済生会ビレッジと連携して地域住民同士の関係づくりを深めていけたら、誰もが安心して暮らせるまちに近づくのではと思います。
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小樽市社会福祉協議会 主幹
長谷川准一さん
地元小樽で鮮魚や地元野菜を売る商店を始めて10年、お客さんは90%以上が地元の方で顔見知りです。僕自身が以前福祉の仕事に関わっていてお客さんの介護や福祉サービスの相談に乗ることもあるんです。済生会ビレッジの取り組みにも興味があり、まちの商店として何か連携できないかと思った時にフードバンクへの食品提供の話をいただきました。前回は野菜だし次は魚かな〜? と喜んでもらえる顔を想像しながら食材を選んでいます。フードバンクはもちろん地域で役立つ取り組みを広めていくことも地元企業の役目だと思っています。
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魚市場「おたる夢市場」 代表取締役
杉村文也さん
小樽市は高齢化に加え、がん、心疾患、脳血管疾患による死亡率が全国・全道に比べて高く、がん検診や特定健診の受診率が低いという地域課題があります。
そこで市では、受診率向上のために健診の受診者にさまざまな特典のある「たるトク健診」を実施。済生会ビレッジでもパネル展示などで取り組みをアピールしていただいており、令和2年度は健診受診率が5%アップしました。
コロナ禍では、外出のしづらさから高齢者がフレイルやうつ状態を引き起こしてしまうことも問題になっています。小樽市では高齢者の心身の健康を保つため、保健事業と介護予防を一体的に提供する取り組みを進めており、今後は地域の人が集まりやすい済生会ビレッジでフレイル予防などのイベントも行なっていきたいと考えています。私が理想としているのは、体だけでなく心も健康でいられるまち。隣の人と声を掛け合える関係性を築くことや高齢者が外に出ていくためのしくみづくりも大切です。済生会ビレッジを拠点に小樽市もウエルネスなまちづくりに協力したいと思います。
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小樽市福祉保険部
保健事業・一体的実施担当 主幹
橋本真紀子さん -
小樽市福祉保険部
保険年金課 課長
斉藤繁幸さん
北海道済生会地域ケアセンターはもともと小樽病院内にありましたが済生会ビレッジの開設とともにこの場所へ移転。地域住民から、認知症や在宅サービス、虐待に関する相談などを受け、ワンストップで適切な支援につなぐ役割を担っています。ショッピングセンター内ということもあり、買い物帰りなどに相談いただくケースも増えました。同じビレッジ内に訪問看護ステーションや居宅介護事業所を設けていることで、必要なサービスにスピーディーにつなげられることも大きなメリットだと思います。
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小樽市南部地域包括支援センター
渡邊紳一さん
認知症高齢者専門のグループホームを小樽で運営しています。少子高齢化という地域課題もあり職員は50〜60代が中心で、何と最高齢は84歳。キャリアを活かしつついかに長く働いてもらうか考えた時、社員の健康を守ることは企業の責任だと感じました。具体的には月に一度の個人面談と利用者さんのケアプランに「健康チャレンジ+10」を盛り込みラジオ体操や足上げ運動などを職員全員で毎日実施。利用者さんと一緒にやることで仕事の達成感にもなっています。介護職は心身共に負担がかかる仕事でもあり体が資本。働く人が幸せであることが地域全体の健康や活性につながると考えています。
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有限会社総合ケアサービス
「ひまわりの丘」「レジデンスポピー」
工藤大嗣さん 福島誠一さん 中谷文泰さん
魅力的なまちは、住民の住み良さが大前提にあります。地域の人の生活を豊かにすることが企業の利益になり、その利益でまちが潤い、サービスが充実して人口が増え……と、どんどん良い流れが生まれます。企業の利益とまちの発展は共存関係にあります。しかし、コロナ禍で消費構造が変わり、インターネットでの買い物が一般的になったことで従来のように物販中心の売り場では、今後、地域に住む人のニーズに応えられなくなってきたと感じています。今後はモノよりも、敷地内に看護学校の誘致やサ高住の開設、済生会のサテライトクリニックなど、健康的な生活の拠点となるようなサービスを充実させる計画を進めています。
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株式会社小樽ベイシティ開発社長室長
内藤雄介さん
経済産業省では、地域の持続可能な発展のため、地域・社会課題解決と収益性との両立を目指す取り組みを支援しています。小樽築港エリアでは、健康寿命の延伸や少子高齢化等の地域課題を解決するために、済生会をはじめ、ウイングベイ小樽や小樽商科大学などの多数の関係者と連携しながら、「ウエルネス」のまちづくり推進によるブランド価値の創出に向けた事業計画を策定しています。この計画により、学び、繋がり、社会参加の場などこれまでにない価値を創出し、他地域と違った「ウエルネス」のまちづくりとして地域課題解決を目指す先進的なモデルとなることが期待されます。
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経済産業省北海道経済産業局
地域経済部 健康・サービス産業課
糀屋優子さん