笑いあり、学びありの寸劇で健康意識を高めたい!
2022.06.21

劇で楽しく正しく学ぶ。
笑いの力で糖尿病の知識を届けるなでしこ一座

愛媛 済生会松山病院
Let’s SINC
糖尿病治療に関する正しい知識を楽しく分かりやすく患者や市民に伝える

日本人の6人に1人が糖尿病予備群

糖尿病は「インスリン」というホルモンが不足したりうまく働かなかったりした結果、血液中のブドウ糖(血糖値)が高くなる病気です。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、しかし、病状が進行するにつれ、臓器の合併症やがん、歯周病、認知症といったさまざまな病気に発展する恐れも。そのため早期の治療が欠かせません。
日本における糖尿病患者の数は、予備群を含め約2000万人。6人に1人が糖尿病の疑いがあるとされています。糖尿病に関する正しい情報を知ることは、早期治療の重要さや生活習慣を見直すきっかけとなり予防にもつながります。

そんな糖尿病についての正しい知識を身につけてもらうため、ユニークな活動をしているのが、愛媛県・済生会松山病院糖尿病ケアチームで結成された劇団「なでしこ一座」。同院が掲げる「患者さんに元気と勇気をあたえる糖尿病教育」を実践するために、オリジナルの寸劇を通して糖尿病についての情報を幅広く発信しています。

※出典:厚生労働省:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果 より

職員考案の寸劇で地域住民の健康意識を向上!

なでしこ一座の初公演は2016年。全国糖尿病週間の夜間糖尿病教室記念行事にて、糖尿病が引き起こす「動脈硬化」について知ってもらうために披露した寸劇が旗揚げ公演となりました。以来、院内の行事や全国糖尿病週間に合わせて、患者さんや地域住民に向け糖尿病に関するさまざまなテーマの寸劇を上演。通算公演回数は15回となりました。

一座のメンバーは、同院の宮岡弘明院長をはじめ、糖尿病専門医や看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、事務職員など約10人。劇のテーマ決めからシナリオ、衣装、小道具作りまで、一座の全員で話し合い、準備を進めます。

なでしこ一座のメンバー。
2018年の全国糖尿病週間に合わせて災害時の対応を伝える寸劇「備えあれば憂いなし」を上演

テーマの選定もひと工夫。見て楽しく学べるよう、「糖尿病の初期対応」や「検診の大切さ」といった身近で関心の高いものを選び、どうすれば効果的に伝わるかを意識してシナリオを練り上げます。上演の際は、分かりやすさを第一に、難しい言葉を避けて大きな声でゆっくり話すことを意識しています。素人一座ならではのアクシデントもご愛敬。和やかな雰囲気で糖尿病について学んでもらい、要点を覚えてもらうために、劇の最後に講義形式で『本日のまとめ』を伝えています。

「座学だけでは十分に伝わらないことが多く、時間が経つと忘れてしまいがちです。その点、寸劇はインパクトを与えやすく、伝えたいポイントを覚えてもらいやすいメリットがあります。見た人の記憶にいつまでも残るよう、笑いあり、学びありの寸劇を劇団一同で作り上げています」(宮岡院長)

同院キャラクターの「なでしーさん」に扮する宮岡弘明院長。
舞台に立つ衣装も“笑えるものを”と、院長のこだわりがつまっている

働き世代の地元警察官に向けた公演も開催

結成当初、年1~2回の公演を行なっていたなでしこ一座でしたが、「劇のおもしろさ」が口コミで地域住民に広まり、日本糖尿病協会が発行する月刊誌「さかえ」にもなでしこ一座が紹介されました。公演回数は年々増加し、病院の中だけでなく、地域のイベントでも公演を行なうようになりました。

2020年には、愛媛県警察本部の警察官を対象に、働き世代に向けた公演を開催。「ストップ生活習慣病!健康寿命を延ばすためのアドバイス」と題し、不規則な勤務が多い仕事だからこそ知っておきたい体内時計の仕組みや栄養管理に関する知識を寸劇を通じて紹介しました。

夜勤などがある警察官の生活に合わせて
健康寿命を延ばすためのアドバイスを劇中に盛り込んだ

劇中では、理学療法士による正しいウォーキングの姿勢や自宅でできる簡単なエクササイズの紹介もあり、警察官からの評判も上々。「健康診断の結果でよく分からなかった項目の意味が理解できた」「警察官の勤務に沿った内容で分かりやすかった」「正しいウォーキングのポイントが知れたので実践したい」などの声があがりました。

劇のテーマには「糖尿病患者の災害時の対応」も

これまで、糖尿病に関するさまざまなテーマに取り組んできましたが、2018年から演目に加わったのが災害時における糖尿病患者の備えです。
災害時は救援物資が炭水化物に偏るため、血糖値のコントロールが難しくなります。糖尿病患者は血糖値が上昇すると、口喝・頻尿・倦怠感などの症状が起こるため、災害時の避難先でも日々服用している飲み薬や注射薬などは欠かせません。

災害時の対応を演目に加えたきっかけは、2018年に愛媛県を襲った西日本豪雨災害。また、南海トラフ地震に普段から備える必要性を感じ、「災害と備え」をテーマにした寸劇を定期的に上演しています。
寸劇では、100円均一商品を上手く活用して、3000円で用意できる持病がある人のための災害キットや薬を常備することの大切さを笑いを交えて紹介。糖尿病と心疾患の合併症による胸の痛みを抑えるニトログリセリンをもじった「薬はどの薬も『ようニトロ?』」というダジャレなどで笑いが起こりました。

100円ショップで揃う災害対策グッズ。
糖尿病患者に欠かせない薬やインスリンを保険証・薬手帳とまとめることで避難先でも安心して過ごせる

また、劇中では糖尿病ケアチームが作成した「糖尿病患者さんの災害時、薬物療法継続のための8か条」を観客と一緒に復唱。災害時にどのような対応をすべきかを伝えました。

  • 薬はいつも携帯しよう

  • お薬手帳を携帯しよう

  • 薬のことを説明できるようにしよう

  • 薬の点検を習慣づけよう(古い情報は危険)

  • 薬の情報を二重、三重に共有しよう(家族の協力)

  • 薬は濡らさないように保管しよう

  • シックデイ時の薬の飲み方を確認しておこう

    ※シックデイ…糖尿病患者が治療中に起こる発熱や下痢などで食欲不振に陥ること

  • 低血糖の対応ができるように準備しておこう

「糖尿病患者さんの災害時、薬物療法継続のための8か条」より

地域での活動を広げるなでしこ一座

病院外にも活躍の場が広がりだした矢先の2021年、一座は新型コロナウイルス感染症の影響により一時的に活動を自粛。同年11月には、市の地域交流センターで開催した家族介護教室にて「糖尿病等の生活習慣病をもつ方の自己管理について」をテーマに久々の公演を実施しました。

教室には地域住民70人が参加。一日にどれほどの塩分を摂取しているかを実際の塩を用いて伝えました。参加者からは「注意して料理していても塩分過多になっていて驚いた」との声が寄せられました。

2021年11月に松山市地域包括支援センターで開催した家族介護教室。
劇では、高血圧患者を題材に一日の塩分量について分かりやすく紹介

疾患について正しい知識を学ぶことは、治療に対して前向きになるきっかけや、自身の健康を守ることにつながります。
糖尿病という多くの人の関心を集めるテーマで公演を続け、地域住民の健康意識の向上にも貢献するなでしこ一座。今後も、見た人の記憶に自然と残る「笑いの力」で病気や予防に関する知識や学びを伝えていきます。

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