異業種の化学反応!
病院&モールが取り組む健康なまちづくり
異業種コラボで生まれるメリット
住み慣れた地域で長く元気に生活していくためには、健康に関する正しい情報や医療の専門的なサポートを日常の中で身近に取り入れられる環境が大切です。そのような環境が整った地域をつくっていくために、病院とショッピングモールがタッグを組んだユニークなまちづくりが全国で始まっているのをご存じでしょうか?
病院もショッピングモールも、わたしたちが地域生活を送るうえで欠かせない存在です。
病院は地域住民の健康を守る役割があり、一般的に心身の不調や不安があるときに足を運びますが、ショッピングモールは子どもから高齢者まで幅広い年齢層が「買い物を楽しむ」以外の目的でも気軽に訪れられるという利点があります。
2019年、国内外に180カ所のショッピングモールを展開するイオンモールと医療・保健・福祉を総合して提供する社会福祉法人の済生会は、双方が拠点を持つ地域で協力する「未来に向けた持続可能なまちづくり協定」を締結。
ショッピングモールの誰にでも開かれた「場所」と病院がもつ「医療の専門性」、それぞれの資源や特長を活かした健康づくりに関する取り組みが各地域のイオンモールで行なわれています。
互いの想いが合致した「まちづくり協定」
イオンモールが2017年からコンセプトに掲げているのは、地域住民の“健やかな暮らし”や“心の豊かさ”をサポートする「ハピネスモール」という新しいモールの考え方。
イオンモールではこれまでも、その地域に住む人々が生活の中で求めているものを汲み取り、買い物しながら運動ができるモールウオーキングイベントやイオンモールのホールを活用した健康診断など、地域の課題とニーズを踏まえた取り組みを推進してきました。この方向性は、済生会の目指す“誰一人取り残さない”地域社会をつくるソーシャルインクルージョンの理念とも一致しています。
現在、覚書を締結しているのは、高岡、西条、今治などの約20施設。
イオンモールと済生会の両者で話し合いを重ねながら、健康や福祉に関するイベントなどを全国でスタートさせています。
今回は、2021年7月に新たにイオンモール今治新都市と覚書を結んだ、愛媛県・済生会今治病院、今治第二病院、今治老人保健施設希望の園で構成する今治医療・福祉センターの取り組みを紹介します。
モール内で医療専門職に相談できる
同センターとイオンモール今治新都市は、2020年度から協働に向け、取り組みを開始。
キックオフミーティングで互いの事業や理念、地域での立ち位置などの理解を深めていき、2021年度、イオンモール今治新都市内で7つの活動を実施することで合意しました。
現時点ですでに看護師や薬剤師に直接相談ができるがんサロンのほか、骨密度や内臓脂肪を測る無料検査、身近な生活習慣病をテーマにした健康相談会、保育士による食育・育児相談などをイオンモールで実施。薬剤師のお仕事体験やモールウオーキングなど、新型コロナウイルス感染拡大により、2022年度に持ち越した企画も含め、今後も新しい取り組みの実施のため準備を進めています。
イオンモールの現場担当者との連携窓口を担当するのは、今治病院の総合医療支援室・MSW課長の松岡誠子さん。医療・福祉施設と商業施設がタッグを組み「先進的なまちづくり」をするというスケールの大きさに、初めは「本当にできるのだろうか」と不安を感じていたと語ります。
「協働を進める中で、がんサロンや相談会を実際にイオンモールで開催できたことが大きな自信につながりました。『友人も誘って来月も行くよ!』『この機会に運動もがんばってみる』といった参加した方のうれしい声をたくさんいただいて、地域の方々にとってより”身近な場所”だからこそ健康の悩みを相談するハードルが下がったのではと感じました」(松岡さん)
組織の垣根を越えて生まれる“新発想”
商業施設の既成概念にとらわれず、施設の空間を柔軟に有効活用しながら地域住民の生活拠点としての役割を果たすイオンモール。
「イオンモールさんの『持っている資源を活かして地域にどう貢献できるか』を考え、着実に具現化していく姿には本当に敬服します。済生会もこれまでの医療・福祉機関の活動範囲に収まらず、話し合いながら一緒にまちづくり活動を展開していくことが重要です」(松岡さん)
また、異業種同士がそれぞれの特性を活かして協働することで新しい発想や企画が生まれると松岡さんは話します。実際にイオンモールのスタッフの声から生まれた企画が、新型コロナウイルス感染症への「感染予防対策講座」です。
「多くの人が集まるショッピングモールで働く社員さんたちが、新型コロナの感染予防対策に関心を持っていたことから事業計画に加えました。そのうえで地域住民に向けても当院が用意した感染予防の映像を館内のサイネージで流せないかと考えています。協働前からイオンモールさんが実施していた『モールウオーキング』『ハイハイレース』も、当院の医療スタッフも協力できるイベントだったため、事業計画に組み込みました」
目指すは「住民のためのまちづくり」
松岡さんはイオンモールでのイベントや取り組みは、実際に健康に対する悩みを抱える人だけでなく、病院に通う頻度が低い若年層の健康意識の向上や病気の予防への関心を高めることにも有効だと気付いたと話します。さまざまな人の目に触れる場所でイベントを行なうことが済生会の存在や活動を知ってもらうきっかけにもなります。
「これまでの活動を踏まえて、今は地域住民にもっと喜んでもらえる企画は何か、より多くの人に参加してもらえるにはどうすればいいかを常に考えています」(松岡さん)
両者が目指すのは「住民のためのまちづくり」。
済生会とイオンモール。お互いの強みを活かしたこの取り組みは、誰もが長く住み続けられる地域を築く「まちづくり」のモデルケースとして注目が集まっています。