回復期リハビリで退院後を見据えたサポートがしたい
2022.08.25

「娘の結婚式に出たい!」患者さんの力を引き出し
“自立”を目指すリハビリ

愛知 愛知県済生会リハビリテーション病院
Let’s SINC
退院後のスムーズな社会復帰と自宅での生活を見据えたリハビリテーションを実施する

回復期リハビリ病院の役割とは?

病院の機能は、救急医療や重症患者の早期安定のための治療を担う高度急性期・急性期病院、急性期の治療を終え、在宅復帰に向けた医療を提供する回復期病院、長期療養の患者さんを受け入れる慢性期病院の大きく四つに分かれています。

愛知県済生会リハビリテーション病院」の前身は、1932年に診療所として開業した地域の急性期病院。2012年に「愛知県済生会病院」から名称を改め、回復期リハビリテーション病院へと転換しました。

転換当時、近隣には、専門機能を備えた700床規模の急性期病院が軒を連ねるものの、退院後の受け皿が少ないという課題がありました。そういった地域の医療ニーズを踏まえ、199床の病床すべてを回復期の患者さんにあて、愛知県最大のリハビリテーション病院として生まれ変わったのです。

120人体制で24時間365日リハビリを実施

急性期病院から退院しても、心身ともに回復した状態で自宅や社会へ戻るためには医学的・社会的・心理的なサポートが必要な患者さんは少なくありません。

同院には、医師・看護師・介護士だけでなく、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)など、リハビリの専門職(セラピスト)が120人以上在籍。患者さんの症状や退院後の生活形態に合わせたリハビリテーションを365日実施しています。大きな特徴は、“起床から就寝までの生活そのもの”をリハビリととらえた生活援助。食事や着替えといった日常的な動作、夜間のトイレの介助なども含めて、24時間のサポートを受けることができます。

リハビリの目標は、入院早期から以前の生活様式や退院時のイメージ、課題を患者さん・家族と共有し、一緒に設定。家族も病院のスタッフも一つのチームとなってその実現を目指します。
退院前には患者さんに同行して自宅を訪問し、生活しやすいよう改修した方がよい場所はないか、段差などに合わせてリハビリの訓練内容を検討するために家屋調査を実施することもあります。

医師・看護師・介護福祉士・理学療法士・相談員などチームでリハビリにあたる。
入院生活や退院後の暮らしを支えるために多職種で議論

「結婚式に出たい」強い思いがリハビリの意欲に

「娘が、5月に県外で結婚式を挙げる予定なんだけど、こんな体の状態じゃ……」

入院後しばらくして涙ながらに話したのは、脳塞栓の急性期治療を終え、リハビリのため転院してきた女性のUさん。入院当初は後ろ向きな発言が多く、リハビリ以外はずっとベッド上で過ごす日々。2カ月後の結婚式参列は遠すぎる目標でした。

結婚式が近づくにつれ、「なんとしても式に出たい」とUさんは強く希望を口にするようになりました。病院の環境にも慣れ、次第に冗談や笑顔で話す姿も見られるようになってきたこともあり、Uさんを担当するリハビリチームは、まず日中の離床を本人に意識づけるように働きかけました。すると、車椅子で自走し、体調がいい日はトイレも自立。同年代の患者さんが同室になると、一段と明るく前向きに変わりました。

ベッドから車椅子への移乗訓練の様子

娘の晴れ姿を見届けることができた

そんなUさんの姿を見て、主治医と看護師長が協議し、リモートで結婚式に参列することを企画。家族も病棟スタッフも共に実現を目指しました。

「一番の課題は、リハビリ中も『疲れた、ベッドで休みたい』と10分程度しか座っていられないことでした。そこで座位保持の時間を延ばす必要性を説明し、車椅子で食堂に行って食事する訓練を開始しました」(PT・Nさん)

朝昼晩と食堂で摂れるようになっても、座ったままの姿勢を保てるのは30分が限界。それでも、『結婚式中は大丈夫、座っていられる!』と日に日に意欲は高まっていきました。Uさんの意欲に応える、できるだけの支援をしようと看護師が式での希望を聞くと、「あのジャケットに、お気に入りのコサージュをつけようかな。髪型も化粧もきちんとして……!」と初めて見るウキウキの笑顔で答えてくれたといいます。

この様子は、もちろんご家族や担当のリハビリスタッフとも共有。ご家族は衣装を準備し、リハビリの一環として、化粧の練習も重ねました。そうして迎えたリモート結婚式当日、Uさんはなんと1時間以上も座ったままで、娘さんの晴れ姿を見届けることができたのです。

希望どおりの衣装でリモート結婚式に参加するUさん。娘さんの晴れ姿を画面越しに見つめる

退院後も自立した生活を送るために

患者さんの何気ない一言から、家族も多職種も結婚式場も一致協力して実現したリモート結婚式。些細なことでも声を出して周囲に伝えてみることで、患者さん本人の人生の「可能性」が広がったのを実感したと、Uさんの治療とリハビリチームのメンバーは話します。

「もちろんUさん自身がつらいリハビリを乗り越えたからこそ希望がかなったケースです。患者さんの中には、『入院中はスタッフに介助してもらった方が楽』と考える人もいますが、退院後の生活では、『頼れるのは自分しかいない』場面も多々あります。他者の手を借りず、自分で当たり前に好きなことができる──それはとてもすばらしいこと。患者さんが自身の意思で行動する機会を奪わないサポートの大切さを改めて感じました」(看護師・Hさん)

2025年には、国民の4人に1人が75歳以上になるといわれる日本。在宅療養を続ける独居高齢者が増えることが見込まれています。本人が希望する暮らしを見据えたサポートを行なう回復期リハビリテーション病院は、今後さらに重要な役割を担っていくのではないでしょうか。

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