まちと人をつなぐ「地域のハブ」をつくりたい
2022.09.20

誰もが集える「ほっとサロン」
ボランティアと病院で 地域と人をつなぐ場をつくる

埼玉 済生会川口総合病院
Let’s SINC
住民ボランティアと病院が協働し、地域の誰もが集えるサロンを運営する

ボランティアの声で生まれた「みんながホッとできる場所」

埼玉県・済生会川口総合病院では、病院の中に地域住民が集まれるサロンを作り、地域ボランティアとともに運営を続けています。
同院では1992年からボランティアの受け入れを開始。院内の案内や問診票の代筆をはじめとした外来患者のサポート、病棟の環境整備、小児病棟での学習援助や本の読み聞かせ、デイルームでのイベント企画など、多岐にわたる活動をボランティアが主体となって行なっています。
ボランティアに参加している人は地域に住む人がほとんど。「人の役に立ちたい」「病院にお世話になったので恩返しがしたい」などきっかけはさまざまです。

地域住民による地域住民のための、このサロンが始まったのは、ボランティア受け入れを開始して20年目のこと。同院の医療圏はもともと独居高齢者や老々世帯が多い地域で、今後も増加が見込まれる「在宅療養者」に向け、「何か自分たちでやれることはないか」とボランティアから声が上がったことが始まりでした。

旧健診センターの一部を利用する形で始まった。
看板には「いつまでも元気なあなたでいるためにおしゃべりを楽しみませんか」

健康や生活に関する相談スペースも備えたサロン

在宅療養の高齢者は家に閉じこもりがちになってしまったり、家族が困りごとを誰に相談していいかわからず悩みを抱えこんでしまったりと地域から孤立してしまう事例が多くあります。
そのような状況を知る地域の在宅医療に長年携わってきた開業医が、「地域にはボランティアの力が必要」と後押ししたこともあり、ボランティアの運営によって地域に住む誰でも気軽に交流できる場「ほっとサロン」が開かれるようになりました。

サロンのテーマは名前の通り、「年齢も性別も関係なく地域に住む誰もがホッとできる場所」。地域住民同士の交流や楽しい時間を過ごせる場であることはもちろん、地域包括ケアシステムの構築に貢献することも大きな目的の一つです。

「サロンを利用する人は大半が地域の高齢者。独居の人をはじめ、認知機能の低下や精神障害があるなど、地域の中での見守りや支援を必要とする方も多く参加しています。サポートが必要な人も含め、誰もが住み慣れた場所で自分らしい生活を送っていくために、このサロンがを顔の見える関係を築くきっかけになれば」と、ボランティアの窓口である医療福祉事業課の石川妃登美さんは話します。

写真中央がお話しを伺った石川妃登美さん。
川口総合病院医療福祉事業課に属するボランティアコーディネーターのメンバーと共に

3軒隣のご近所さんのような関係

サロンでのボランティアの大切な役割は、参加者とのおしゃべりを楽しむこと。アロマハンドトリートメントや縫物(ちくちく会)、ぺーパークラフトなど、それぞれの特技を活かした催しも随時開催しています。サロンには、同院の看護師や社会福祉士保健師に気軽に困りごとが相談できる「暮らしの保健室」も開室。リハビリや熱中・脱水症対策、病気を引き起こすカビの退治方法やお薬手帳の活用法まで、生活に役立つ情報を発信する健康教室も実施しています。

通っている人たちからは「ここに来ると楽しい」「友達ができた」とのうれしい声が多数寄せられ、通院の前後に必ず立ち寄る人も。開始当初は利用者もまばらでしたが徐々に地域のなかで認知度が高まり、2020年には月延べ100人程度が利用するようになりました。

サロン参加者とボランティアの関係づくりも大切、と石川さんは話します。
「一言でいうと、3軒隣のご近所さんのような関係。参加者とボランティアという関係ですが、支える側、支えられる側という関係性ではなく、その時々によって互いに見守り、声を掛け合っています」

サロンに来ていた女性と、ボランティアさんの間にはこんなエピソードも。
「父親を亡くした女性で、当初は自責の念や後悔の思いが強く、うつ傾向にありました。そんな姿を見た80代女性のボランティアさんがサロンで話を聞いていくと、ご本人の気持ちも少しずつ整理され、最終的にボランティアとして参加されるようなりました」(石川さん)

アロマとハンドトリートメントでリラックス
みんなで語らいながらハンドメイドを楽しむチクチク会(縫い物の会)

ボランティアと病院内のコーディネーターでともに創る場

「ほっとサロン」の活動を支えているのが、ボランティアのサポートや調整などを行なう院内のボランティアコーディネーターの存在です。
ボランティアコーディネーターとは、日本ボランティアコーディネーター協会が定義付けをしている「ボランティアスタッフの活動を支援する人」のこと。同院では、石川さんをはじめ、医療福祉事業課の4人がボランティアがいきいきと活動することができるよう、参加する地域住民にとって元気になれる場を目指してサロンをサポートしています。
ボランティアとコーディネーターが共に学び合う場として始まった月に1度の勉強会では活動の振り返りや課題を検討。サロンのさらなる充実を目指し新規イベントの企画も行なっています。

企画の立案からイベントの運営、課題解決まで、ボランティアが主体的に取り組むことでよい循環も生まれていると石川さんは語ります。
「病院の運営にボランティアさんの力を借りているという認識ではなく、病院とボランティアが力を合わせて行なうことを大切にしています。ボランティアが主体となって取り組むことで形式ばらない、地域の方に親身に寄り添える場になっています」(石川さん)

コロナ禍でも続くボランティア活動

これまで順調に運営を続けていた「ほっとサロン」ですが、新型コロナウイルスの影響で休止せざるを得ない状況が続いています。
このような状況下でもボランティアが自ら率先し、参加者とのつながりを絶やさぬよう、サロンの入口の飾り付けのほか、以前サロンでおしゃべりしていたような日常のトピックスを載せた「ほっとサロンだより」の発行を続けています。

「ほっとサロン」に先駆けて再開したのが、病棟の環境整備などをはじめとした病棟ボランティアの活動。病棟内に入って行なう活動はまだ厳しいものの、「病院の外にあるボランティアルームでの活動ならばできることがある!」というボランティアの強い思いと病院スタッフの願いで、再開させることができたそう。
空気清浄機やパーテーション、自動手指消毒器などの設置や感染対策を十分にとったうえでタオルたたみや、テープカット、ボランティア団体「絵手紙ふじの会」による絵手紙の掲示など、それぞれができることに励んでいます。

石川さんは、長年協働してきたボランティアの存在を、地域に開かれた病院づくりのために不可欠なパートナーだと話します。そして病院に日常の風を運んでくれる「地域との橋渡し役」でもあると話します。
ボランティアと病院が二人三脚で活動をしてきた、地域の誰もが気軽に立ち寄ることのできる「ほっとサロン」。地域の居場所としてだけではなく、ボランティアと地域をつなぎ、さらに病院と地域をつなぐ『地域のハブ』としての役割も担っています。

ボランティアから病棟助手のスタッフに病棟の環境整備の物品の受け渡し

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