高齢者も楽しく続けられる運動習慣を提案したい!
2023.01.30

高齢者施設で日本一周ウオーキング
健康づくりはアイデア次第でこんなに楽しい!

埼玉 特養彩光苑
Let’s SINC
運動不足に陥りがちな高齢者が楽しく続けられるウオーキングプログラムを提案する

フレイル予防には「食事」「運動」「社会参加」

健康づくりのキーワードで「フレイル」という言葉を耳にする機会が増えました。このフレイルとは、加齢によって心身に衰えが出てきた状態。生活習慣病などの疾病や老化などが原因で、運動機能や認知機能を含む生活機能が低下し、それが連鎖的に起こることによってドミノ式に介護が必要な状態になる危険性が指摘されています。

フレイル予防に重要なのは、体と心の両面での健康づくり。予防策として、年齢に応じたバランスのよい食事や継続的な運動習慣、人とのつながりを持ち続ける社会参加の三つが挙げられています。しかし、コロナ禍で外出の機会が減少したこともあり、運動を習慣化することが難しい現在。実際、何から始めていいのかわからないという悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。

埼玉県にある特別養護老人ホーム・ケアハウス彩光苑では、「歩いて日本一周チャレンジ!」を目標にしたウオーキングプログラムに苑内で取り組み、利用者さんからの好評を博しています。このプログラムの特徴は、運動を長続きさせるための工夫が盛り込まれているところ。さらに、一緒に取り組む人とのコミュニケーションが継続するモチベーションにつながっているといいます。では、どんなプログラムか見ていきましょう。

徒歩で「日本一周旅行」!?

ケアハウスには、自炊できない程度の身体機能低下があり、家庭での生活に不安がある60歳以上の人が生活しています。施設では、利用者さんの意思を尊重しながら、いつまでも健康的で自立した生活が送れるよう入浴や食事等のサポートを行なっています。

「徒歩で日本一周旅行」と名付けられたこのウオーキングプログラムは、コロナ禍の2020年8月からスタート。ケアハウスではこれまでも、毎朝のラジオ体操や脳活嚥下体操を月に各1回実施していましたが、コロナの感染拡大で、外出は思うようにできない日々が続いていました。
「外に出られずに毎日を過ごしている入居者さんが、自主的に廊下を歩いている様子を目にしたことが、このプログラムを始めたきっかけ」と語るのは、発案者で介護福祉士の吉井幸子さん。自身も健康維持のために毎日4キロ歩くことを日課にしているそうで、「施設内のウオーキングを日本一周旅行に見立てれば、目標もできて楽しく続けてもらえるのではないか」と、このウオーキングプログラムを企画したそうです。

日課のウオーキングにヒントを得て「徒歩で日本一周旅行」を企画した吉井幸子さん

まず着手したのが、コースの設定。ウオーキングメジャーを転がしながら廊下を何度も行き来して、体調に合わせて無理なく歩けるように、1周が77m、139m、300mの3つのコースを用意しました。
記録用紙は、300m歩くたびに1マスを塗りつぶしていくすごろく形式のもので、歩いた距離がひと目でわかり、達成感を味わいながら楽しくウオーキングが続けられます。さらに、その土地の名所や旧跡、名物、方言などの情報を盛り込むことで、より旅行気分を高めることもできます。

施設内に設けられた3つのウオーキングコース

施設内には、「日本一周ウオーキングマップ」を掲示して、ケアハウスから、全国の名所・旧跡までの距離を記し、各到着地に入居者さんの顔写真を貼るようにしました。すると、入居者さんの間で、「東京スカイツリーはもう行った?」「私は鎌倉」「あら、私は今箱根よ」と、会話に花が咲くようになったそうです。

当初は、45名の入居者さんのうち11名のみが参加と決して多くはありませんでしたが、ウオーキング講習会や体力測定などを通じて参加を呼びかけ、現在は20名の入居者さんが自分のペースで元気に楽しく全国を巡っています。

写真がいっぱいでカラフルな記録用紙。楽しみながらマス目を塗る入居者さん
参加者のみなさんが歩いた距離がひと目でわかる「日本一周ウオーキングマップ」

2年で1000キロ以上歩いた参加者も

「記録用紙が励みになっています」と話す96歳の女性入居者さんは、このプログラムを通じて施設内ウオーキングが日課になったそうです。
入居者さんのうち、一番歩いている人はなんと歩行距離1000キロを超え、ケアハウスを出発後、鎌倉から富士山、大阪、神戸、岡山、しまなみ街道を巡り、現在は高知を旅行中とのこと。

楽しく会話しながら運動できるのもウオーキングのいいところ

こうしたさまざまなアイデアを取り入れたウオーキングプログラムは、入居者さんの間で定着。ウオーキングの進み具合も職員が予想した以上に早く、業務の傍らで作成する記録用紙が追いつかず、利用者さんから催促されることもしばしばあるそうです。

「入居者の皆さんは、『自分のためだからね』と体力や歩行機能の現状維持を目指し、自発的に取り組まれています。毎日少しずつでも自分のペースで続けてくれているのがうれしいです。日本一周の大きな目標に向かい、記録用紙の目的地をひとつずつクリアして、次の目的地に向かうことで達成感が生まれ、継続する力になっているようです。それが私の記録用紙を作成する励みになっています」(吉井さん)

参加者のみなさんの複合運動能力を測定すると、ウオーキングを始める前に比べて、多くの人の運動能力が向上。
「ウオーキングは道具もお金もかからず、無理のない負荷で健康の維持・増進ができる素晴らしい運動! アイデア次第で楽しく続けることができます。少し先の目標まで歩き、それを繰り返すことによって遠くの目標にたどり着くことができます」と続けるコツを話してくれた吉井さん。

コロナ禍でなかなか遠出もしづらい今、室内や空き時間で楽しみながら続けられる、日本一周ウオーキングをぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。レッツ ウオーキング!

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