いつでも気軽に利用できる乳児院へ ショートステイで地域の親子に寄り添う
2023.2.27

いつでも気軽に利用できる乳児院へ
ショートステイで地域の親子に寄り添う

Let’s SINC

子育てで困ったときに駆け込めるショートステイを提供し、地域の親子を支援する

家庭での養育が困難な乳幼児を育てていく乳児院。東京都・港区にある日本で最古の施設「東京都済生会中央病院附属乳児院」では、これまで多くの子どもたちを支援してきました。同院では地域に開かれたサービスとして、親が一時的に子を預けることができるショートステイも実施しています。地域と共生し、常に子どもファーストを願う同院の取り組みを取材しました。

日本初の乳児院は、さらにきめ細やかな保育を目指す

子供たちと一緒に積み木で遊ぶ人のイラスト

乳児院は児童福祉法第37条に規定された、新生児から2歳児までを養育する施設です。現在、全国に144施設あります。東京都には11施設で、その中で最も歴史があるのが東京都済生会中央病院附属乳児院です。実はここが日本初の乳児院なのです。
同院の前身となる「済生会赤羽乳児院」が開院したのは1924年1月。今から100年近く前になります。関東大震災で被災した妊産婦や乳児を養護するために、病院の一部に乳児院を開設したのが始まりです。

第二次世界大戦後の1947年に児童福祉法が設立され、戦災孤児や栄養・衛生上の問題による発育不良、感染症などから子どもたちを保護する目的で乳児院が設置されるようになりました。当時は養育が困難な家庭が多く、罪なき乳幼児を捨てる者が急激に増加し、済生会病院前に「赤ちゃんポスト」が設置されるような状況。乳児院の必要性は、どんどん増していきます。
済生会赤羽乳児院では、収容児が70人を超え、あっという間に超満員となります。やむなく「赤ちゃんポスト」を廃して、新たに家庭での養育が困難な親らの相談に応じることになりました。これもまた連日にわたって相談が後を絶たなかったそうです。それほど親子ともに困っていた人がたくさんいたのでしょう。

1950年4月に現在の「東京都済生会中央病院附属乳児院」という名称になります。その後3回の増築や移転などを経て、2020年9月に建て直しました。5階建ての施設には、親と子の面談室や、地域の人たちの交流室をはじめ、のびのびと体を動かすことができるプレイルーム、さらには緑豊かな屋上庭園も備えています。もちろん保育室も充実。新生児室や乳児室のほか、病児用の部屋も備えています。


2020年9月竣工の東京都済生会中央病院附属乳児院

院長の岡尾良一さんは、改築したことの意義を次のように話します。
「2016年に児童福祉法が改定され、児童が心身ともに健やかに養育されるよう、より家庭に近い養育の推進を図ることが必要なことから、国・地方公共団体(都道府県・市町村)の責務として家庭と同様の環境における養育の推進等が明記されました。それによって施設での養育は『良好な家庭的環境』で行なうため、現在は小規模グループ保育という1室で4〜6人の療育が推奨されています。手厚く見守りやすく、家庭での環境に近い保育です。乳児院を5階建てにしたことで、スペースにゆとりができ、きめ細やかに保育できるようになりました」

同院では、原則2歳までの家庭での養育が困難な乳幼児を預かり、育てています。関わるスタッフは保育士をはじめ、看護師や理学療法士、管理栄養士、栄養士、調理師、家庭支援専門相談員のほか、里親支援にまつわる里親専門相談員や里親交流支援員など、その数は62人。大勢の大人に見守られるあたたかな環境で、子どもたちはすくすくと育っていきます。


屋上庭園の様子。夏は水遊びも楽しめる

屋上庭園では食育の一環でイチゴを栽培

親と子にひとときの安らぎを与える「ショートステイ」

子供と手をつないで散歩をしている女性のイラスト

東京都済生会中央病院附属乳児院は、新生児や乳児を持つ親の利用ニーズが高いことを受けて、2021年度からショートステイ事業を始めました。
ショートステイとは、子育てや家庭の事情で困っている親御さんが、短期間だけ子どもを預けることができるサービスです。

定員は1日に3人。最短1泊2日、最長6泊7日、月に2回までの利用が可能です。開始当初は港区と連携して行なっていましたが、現在は品川区の住人も利用できるようになっています。
同院でもこれまでに100人を超える親子が利用し、そのニーズはますます高まっています。

乳児院は家庭での養育が困難という理由で入所することが多いですが、ショートステイの場合は、親の仕事・出張、病気・入院、冠婚葬祭などの際に利用できます。家庭や親子だけでは解決できない場合に頼ることができるのがショートステイなのです。

このほかに、親が自分の心身を休めるために利用することも多いそうです。産後で心も体も不安定なとき、子どもの夜泣きに疲弊しているとき・・・・・・。このようなときにショートステイは親たちのよりどころになっています。


ショートステイ利用時は毎回、子どもの様子を詳しく聞き、育児・健康相談も受ける

乳児用ベッドには頭をぶつけないようベッドガードクッションを使用している

安全面に配慮し、月齢や発達段階に合わせて遊べるお遊びスペースを備えている

子どもの状況に合わせて提供している離乳食は、アレルギーにも対応している

全国の施設で実施されているショートステイによる支援

済生会では、東京都済生会中央病院附属乳児院を含め、全国に7つの乳児院を運営しており、すべての施設でショートステイ事業に取り組んでいます。各市町村と乳児院がともに連携しながら、地域に暮らす親子のサポートを行なっています。

東京都済生会中央病院附属乳児院(東京都港区):新生児や乳児の需要が多く、レスパイト(休息)による利用がほとんど。産後ケアを受けた利用者が多い。 宮城県済生会乳児院(宮城県仙台市):育児疲れ、不安、引っ越し、養育環境整備などでの利用が多い。 乳児院はやぶさ(山形県山形市):親の入院や出産、シングルマザーの育児疲れなどの利用が多い。利用件数自体は少ない。 栃木県済生会宇都宮乳児院(栃木県宇都宮市):育児疲れ、生活困窮、子どもの関りが難しいなどの理由で利用するケースが増えている。 済生会川口乳児院(埼玉県川口市):定員の範囲内で空きがあれば受け入れるが、数年は満床状態で受け入れができていない。 福井県済生会乳児院(福井県福井市):親の冠婚葬祭、入院、レスパイト、仕事などの理由で利用。リピーターも多い。 大阪乳児院(大阪府大阪市):出産、出張、親の入院、里親のレスパイトなどで利用。 東京都済生会中央病院附属乳児院(東京都港区):新生児や乳児の需要が多く、レスパイト(休息)による利用がほとんど。産後ケアを受けた利用者が多い。 宮城県済生会乳児院(宮城県仙台市):育児疲れ、不安、引っ越し、養育環境整備などでの利用が多い。 乳児院はやぶさ(山形県山形市):親の入院や出産、シングルマザーの育児疲れなどの利用が多い。利用件数自体は少ない。 栃木県済生会宇都宮乳児院(栃木県宇都宮市):育児疲れ、生活困窮、子どもの関りが難しいなどの理由で利用するケースが増えている。 済生会川口乳児院(埼玉県川口市):定員の範囲内で空きがあれば受け入れるが、数年は満床状態で受け入れができていない。 福井県済生会乳児院(福井県福井市):親の冠婚葬祭、入院、レスパイト、仕事などの理由で利用。リピーターも多い。 大阪乳児院(大阪府大阪市):出産、出張、親の入院、里親のレスパイトなどで利用。

児童虐待件数は年々増え続け、2021年度は過去最多となっています。全国の乳児院の入所理由で最も多いのも虐待です。ショートステイを利用し、親が育児疲れや不安から解放されてほっとできる時間を持つことで、虐待の低減につながるのではないかと期待されます。

気軽に訪ねてもらう“心のお守り”となる場所を目指して

乳児院やショートステイというと、皆さんはどういうイメージを抱きますか。
「育児や養育が困難な人が訪れる場所」「虐待などの環境が要因で、親子が一緒にいることができない人」というイメージを抱く人もいるかもしれません。
しかし、実際はそうではありません。

乳児院で職員と話すお父さんお母さんと子どものイラスト

ショートステイサービスを利用する人の多くは、産後のお母さんとその家族。産院で出産後に引き続きショートステイを利用している人もいます。産後に無理をすると、中には体だけでなく心を壊してしまう人もいます。そうなる前に、気軽に利用してもらうことを、乳児院のスタッフは願っています。

東京都済生会中央病院附属乳児院で副院長として地域の親子の支援に取り組んでいる石田晃代さんは、「利用されている人たちには育児不安などでなかなか相談できず、孤立している人が多くいらっしゃる印象があります。そういう人たちにとってショートステイのような子育て支援はとても大切です。これまでも多くの人々に利用してもらっていますが、もっともっと地域の皆さんにこの事業のことを知っていただきたいと考えています」と述べます。

夏には屋上庭園で水遊びを楽しむ
夏には屋上庭園で水遊びを楽しむ

同院で係長保育士・家庭支援専門相談員を務める樋口雅子さんは「“困ったときに頼れるところがあるんだ”って思うだけでも違います。心の片隅にとめておいてもらえるような、お守りのような場所を目指していきたいですね」と力強く語ってくれました。
同院の良いところは、病院(東京都済生会中央病院)がすぐそばにあること。親御さんの不安な気持ちに寄り添い、育児のアドバイスなどもできる環境が整っています。

育児でんわ相談などの活動をしている東京都済生会中央病院附属乳児院・看護師長の小泉菜穂子さんは、乳児院にそろうスタッフの専門領域の幅広さに太鼓判を押します。
「乳児院内には保育士をはじめ、看護師や理学療法士、臨床心理士、管理栄養士といった多職種が働いています。乳児院は、お子さんやご家族の支援はもちろん、里親や地域支援を行なう役割と機能を持っています。さらに、当院は病院も併設しているためより専門的なケアができると考えています。これがインクルージョンな仕組みともいえるのかもしれません」(小泉さん)

天気がいい日は近くの公園にお散歩へ
天気がいい日は近くの公園にお散歩へ

岡尾院長はこう述べます。
「地域で生活する人たちが、困ったり助けてほしい時に手を差し伸べられる場所であること。そのために地域の子育ての支援をしていきたいですね。まずは、積極的に私たちの存在について知ってもらうこと。そして、いつでも足を伸ばしてもらえるように地域との交流活動をこれからもしていきたいですね」

東京都済生会中央病院附属乳児院でショートステイを利用するのは、育児不安を抱えている親が多いといいます。そうした人々がショートステイを気軽に使えるよう、地域の自治体などと情報を共有しながら親と子をサポートする取り組みを続けています。

乳児院を包括的にサポート ユニクロの衣料寄贈イベント

済生会とユニクロは、これまで相互に手をとりあい、社会貢献活動を行なってきました。2022年3月には、「ユニクロ 済生会中央病院店」をオープン。「あらゆる人の生き方を豊かに、より快適にする究極の普段着」を目指す「LifeWear」をそろえた初の医療施設内店舗です。
こうした取り組みの一環として、ユニクロからこのほど、済生会の乳児院各施設と児童養護施設の合計8施設に、衣料品が寄贈されました。ベビー&キッズ秋冬物の衣料品、その数なんと700着です。
寄贈に際して、東京都済生会中央病院附属乳児院にて子どもたちとユニクロ済生会中央病院店のスタッフとでイベントを実施。カウンターに並んでいるお気に入りの衣料品を子どもたちがスタッフから受け取るやり取りは、まるでお買い物ごっこのよう。大いに盛り上がりました。

お買い物ごっこのように楽しみながらユニクロの衣料品を受け取る2歳くらいの子供の写真(左) 早速ユニクロの服に袖を通す子どもとそれを手伝うスタッフの写真(右)

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