保護者の不在、虐待や育児放棄、貧困などの理由から、
養護を必要とする子どもたちが暮らす児童養護施設。
静岡県伊東市の川奈臨海学園もその一つです。
海が近く自然豊かなこの地で、
半世紀以上にわたって子どもたちを支援してきた同園。
2021年4月に新築された施設に伺いました。
データは2021年9月現在
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保護者の不在、虐待や育児放棄、貧困などの理由から、
養護を必要とする子どもたちが暮らす児童養護施設。
静岡県伊東市の川奈臨海学園もその一つです。
海が近く自然豊かなこの地で、
半世紀以上にわたって子どもたちを支援してきた同園。
2021年4月に新築された施設に伺いました。
データは2021年9月現在

子どもたちの生活風景

現在、児童数は幼児4人、小学生9人、中学生11人、高校生3人、短大生1人。
家での生活と同じように、それぞれが始業時間に合わせて、登園・登校していきます。
下校後も学習サポートを受けたり、自由時間を満喫したり、自分の時間を過ごします。

学園での一日

伊東市立の小・中学校にバス、高校に電車通学。小学生は職員が停留所まで引率します。小学生には週2回、地域のボランティアが宿題など、勉強をサポートしてくれます。夏には、芝生のテラスで水浴びする幼児たちの楽しい声も。中高生になると部活に打ち込む子もいて、洗濯物もたっぷりです。食事は職員が用意しますが、配膳片付けは手分けして行ないます。
  • 6:00 起床
  • 7:00 小学・中学・高校 登校
  • 8:00
  • 幼稚園登園
  • 14:00 幼稚園降園
  • 15:00 おやつ(幼児)
  • 16:00 小学生下校(中・高 順次)
  • 宿題・入浴
  • 18:00 夕食など(ユニットごと)
  • 自由時間
  • 20:30 就寝準備
  • 21:00 小学生消灯
  • 22:00 中学・高校生消灯

年間の行事

家庭的温もりの施設

建物の中には職員室などもありますが、入口の導線が工夫されているので、
子どもたちが暮らすエリアは、マンションの外観とそっくり。
幼児・低学年用2つ、男子・女子用各2つの6ユニットに分かれて生活しています。

ユニット(LDK)

ユニットといってもそれぞれに玄関があって、LDKを中心に居室が配置され、シェアハウスといった趣きです。広々としたLDKには、テレビやソファーもあってくつろぎの空間。

居室

年齢や性別に加え、プライバシーにも配慮。年齢に応じて、2人部屋と1人部屋が用意されています。収納もバッチリです。

厨房・洗濯室

食材は厨房で6ユニット分の仕分けをしてから各ユニットに運び、担当の職員が調理を行ないます。シーツなど、大物の洗濯にも困らない業務用洗濯機と乾燥機が1台ずつ備わっています。

地域交流スペース(上)・事務・職員室、玄関(中・下)

これまでも地域との結びつきが深い同園。地域交流スペースでは、バザーや子育てサロン、防災講習、退園生の講演など企画しています。

子育て短期支援室(左上)

保護者が病気やけが、出産、仕事などの理由によって、一時的に育児が困難になった場合、最大7日間子どもを預けられる部屋も設置しています。

家族療法室(左中)

家庭復帰のための面会などさまざまなケースで活用。

心理療法室(左下)

心理的援助が必要な子どもへのセラピーなど。

地域と人とともに

川奈臨海学園は1955年、転地療養を目的にした虚弱児施設として開設しました。
2012年までは診療所が併設されていて、
地域にも馴染みが深い存在でした。

檜垣 功さん(元川奈区長)
檜垣 尹子さん

2010年から18年まで川奈区長を務められた檜垣功さん。「学園ができたのは小学校6年のとき。それ以来、学園は川奈の一部です。私は川奈小学校の評議員もしていましたから、子どもたちと催し物や行事等で触れ合う機会も多くありました」と話します。尹子さんも「診療所の先生には、いろいろと相談に乗っていただき、とても感謝しています。川奈の人は学園と一緒に育ってきた。学園の子たちも、自分の子どものようにかわいいですね」と目を細めます。

村上 吉男さん(元川奈臨海学園施設長 嘱託医)

1999年、診療所の医師として赴任された村上吉男さん。「伊東市は小児科が少ない土地だったので、多いときは1日100人くらい診たことも。大変なところに来ちゃったな、と(笑)」。そんな村上さんが施設長になられたのが2005年。「医師の私にとって専門外のことばかり。スタッフに教えてもらう毎日でした。当時は園児が70~80人くらいいて、古い建物ではプライバシーも守れない。建て替えを考え始めたのもその頃でしたね」。現在は伊東市でクリニックを開業するかたわら、嘱託医を務めています。「社会に貢献できる人材に育ってほしい」と今も子どもたちを見守っています。

上原 悌治さん(元学園職員)

1960~70年代に、約20年間用務員として指導員のサポートもされていた上原悌治さん。当時の学園は虚弱児施設。子どもたちの体づくりのために、元は地元の漁師だった上原さんは経験を生かして、川奈の海を活用。「漁協にも協力してもらって、カッター(大型の手漕ぎボート)で海洋訓練をしてたんだ。
仲間と協力してカッターを漕ぐことで、いろんなことが学べたんじゃないかな」と振り返ります。上原さんは退職後、再び漁師に戻り、喜寿を過ぎた今でも朝2時に出港して、漁場である伊豆大島まで向かっているそうです。

紀藤 信哉さん(学習ボランティア)

3年ほど前からボランティアとして、学園の子どもたちの学習サポートをしている紀藤信哉さん。以前は大学で教壇に立っていた経験もお持ちです。「知り合いの紹介がきっかけです。勉強に苦手意識を持たないように、15分やったら5分休み、といったように、工夫して教えています。でも、子どもたちが壁を感じないように『甘いおじいちゃん』くらいでいいのかなと」。学校での出来事など、子どもたちの話も聞きながらの週2回、約1時間半。「私の方こそ、充実した時間を過ごさせてもらっています。断られるまで続けたいですね(笑)」。

小林 史紘さん(学園OB)

「中学3年間、当時は虚弱児施設だったこの園にお世話になりました。毎朝、外で冷水摩擦してグラウンドを走るのが日課でしたね」と話す小林史紘さん(右)。岩田弘和指導員(左)は「ひょうきんな子どもでしたよ」と振り返ります。今は車関係の仕事に就き、レース活動もされているそう。「久しぶりに園を訪れたとき、子どもたちが室内でゲームばかりしていたのをみて、彼らにもっと何か、夢を与えてあげたいと思って。SNSで仲間を募ってスポーツカー展示を合計3度ほどやりました。将来の可能性を信じられるようになってほしいですね」

檜垣 功さん(元川奈区長)
村上 吉男さん(元施設長。嘱詫医)
上原 悌治さん(元学園職員)
紀藤 信哉さん(学習ボランティア)
小林 史紘さん(学園OB)

施設の人々とその思い

学園では、直接子どものサポートをしている児童指導員・保育士をはじめとして、
40人を超える職員が働いています。この中には、里親支援、自立支援といった
専門職員の方々もいて、さまざまな側面から支援を行なっています。

子どもの最善の利益のために

現在、施設長を務められる竹居昭子さんは、1986年に保育士として入職しました。「退園した子どもたちがあいさつに来てくれると、とてもうれしいですよね。若い職員にも、今の支援は今日、明日には結果が出ないけど、10年、20年後に実を結ぶときが来るから、あきらめずに子どもたちと向き合ってほしい」と伝えています。

施設長の竹居昭子さん

学園には、里親支援相談専門員や自立支援担当職員もいて、児童相談所など関係機関とも連携をしています。「里親との調整、候補者の把握、短期里親制度の計画や実施だけでなく、里親の候補者探しや研修も行なっていきます。里親の方々や本職員と一緒に、社会的養護を必要とする子どもの手助けをする仲間を増やしていきたいですね」と鈴木志穂さん。
「建物は新しくなりましたが、今までの学園の歴史を引き継いで、この川奈の地で子どもたちと一緒に未来を育んでいます」と、竹居さんはこれからの目標を語ってくれました。

里親支援専門相談員の鈴木志穂さん

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