不登校の子どもたちを応援する、第3の居場所づくりを。北海道済生会が小樽市初となるフリースクールを開設
2025年5月26日、北海道済生会は小樽市内で初となるフリースクールを開設しました。
開設のきっかけは、2024年6月、同会が引きこもりの当事者支援の一環で、高校を中途退学した17歳の女性を当会のアルバイトとして雇用したこと。当時、引きこもり支援の経験が少ない同会の職員は試行錯誤しながらも対応にあたっていました。
そこで2025年2月、高校教諭を定年退職し、同会事業共創推進室員として勤める小嶋仁章さんをフリースクールの職員として採用。小嶋さんには引きこもり支援のサポーターとして、アルバイトスタッフの教育係を依頼しました。
小嶋さんは持ち前の明るさとコミュニケーション能力で、彼女と次第に打ち解けていきました。1カ月後、彼女は定時制高校に合格、無事に入学を果たしました。この経緯を経て、小嶋さんが同会に語りかけたのが次の言葉でした。
「ちょっとしたきっかけで学校に行けなくなった子は、小樽市内だけでもたくさんいる。だけどその子らを受け入れる場所がない。不登校の子どもたちを済生会で救えませんか?」
これを受けて、同会広報課の土谷浩大さんと、ソーシャルインクルージョン推進室課長の角谷康次さん、そして小嶋さんの3人で、小樽市における不登校児の現状を分析。他都市のフリースクールも視察し、小樽にフリースクールを設立する計画が策定されました。
一人ひとりを観察し、「やりたい」をかなえる
「済生会フリースクール」は、小嶋さんをスクール長として、土谷さんが対外的な窓口と事務管理、社会福祉士でもある角谷さんが事前に子どもや保護者と面談して現況をヒアリング、個別の支援計画を作成し、情報共有を行なっています。
フリースクールの開設場所は、同会と連携する商業施設・ウイングベイ小樽内にある「済生会スクエア」の一隅。開講時間は月曜日から金曜日の10時から17時30分を基本とし、事前に子どもたちと日程を調整することで、一人ひとりのニーズに合わせています。生徒の受講料は無料で、行政機関にも趣旨を説明し連携を図ってきました。今後は持続可能な運営のために、さまざまな補助事業の活用も模索しています。
また、同スクールの取り組みが広まるにつれ、学校や教育委員会からの問い合わせが増え、市内の学校長や教育委員会とも関係性を築いています。その結果、同スクールへの登校が小樽市内で初となる「学校の出席扱い」として、各学校長の判断により認められています。

理科の授業をする小嶋さん
スペースの関係から当初定員は6人としていましたが、応募が多数だったため増設。2025年6月に初めて中学生が入校し、2026年6月には10~17歳までの計13人に。入校する児童、生徒の背景は実にさまざまで、家庭環境が複雑な子、学習についていけなくなった子など、いろいろな要因があります。
そうしたなかで同スクールでは、それぞれの状態に合わせた支援を行なっています。学習支援においては、例えば数学が苦手な子には専用のカリキュラムを編成。また、不登校により自信を失っている子も多いため、それぞれの得意なことを見つけ、それをスクール内で実践することで自己肯定感を高める取り組みに力を入れています。お菓子作りが好きな子には、お菓子作り教室のレシピ考案を任せるなど、一人ひとりと深く向き合いながら「やりたい」をかなえる居場所を提供しています。
体験・学習支援だけでなく、その後の自立も視野に
同スクールでは現在、スクール長である小嶋さんを中心に臨時の英会話講師や同会職員が運営に参加し、1日あたり4〜5人の児童・生徒を受け入れています。
日々の学習支援や施設内での子ども同士のコミュニケーションに加え、利用者の増加に伴い社会性の育みを目的とした体験型プログラムも実施。小樽病院と連携した「臨床工学室の社会科見学」や、就労継続支援事業所ぷりもぱっそ(B型)の協力のもと、ウイングベイ小樽内の調理スペースで、子どもたちが自ら献立を企画する「お菓子作り教室」などを開催しています。これらの活動は、同会の多くの職員の協力で運営されています。

お菓子作り教室での子どもたちと小嶋さん

真剣な表情でマフィンをデコレーションする

小樽病院臨床工学室での社会科見学ツアー。心肺蘇生では胸骨圧迫を実際に体験し、AEDの使い方も学んだ
日常的に行なわれる学習支援の面では、「これまで10点しか取れなかった数学のテストで59点まで取れた」と報告に来た生徒もおり、成果を実感することで勉強への苦手意識が薄れ、前向きに取り組めるようになるなどの成長がうかがえます。
また、生徒の主体性を育む「社会体験」の機会づくりにも力を入れています。中学2年生の生徒から「樹脂粘土でミニチュアキーホルダーを作りたい」と提案があった際、単なる工作にとどめず、社会学習の一環として企画プレゼンテーションの場を設定しました。「作る」だけでなく、「販売する」ことを目標として、同会の櫛引久丸常務理事をはじめとする職員らの前で生徒自ら企画を説明し、見事に決裁を獲得。発表を終えた生徒は「人生で一番緊張した」と笑みをこぼしました。


こうした一連の取り組みが、2026年9月6日に商品化という形で結実しました。ウイングベイ小樽で開催された同会主催の「共生フェス2026」で、フリースクールの生徒によるショップを出店し、生徒たちが製作に2カ月をかけた手作りのミニチュアキーホルダーを販売。限定15個の販売となりましたが、無事に完売しました。
終了後は、企画した生徒からの「自分で作ったものを販売できてうれしかった」という声を筆頭に、「お客さんに向けていっぱい声を出して販売して、喉がカラカラになった」「売れてうれしかった!」といった達成感にあふれる声が飛び交いました。さらに、「自分も何か作って売ってみたい」という意欲的な声が上がるなど、子どもたちの主体性を育む貴重な体験となりました。

卒業後の「働く場」も見据えたフリースクール
同スクールの目的は「社会的自立をして社会で活躍できる人材を育成する」ことであり、対象者には子どもたちだけでなく、そこに携わるスタッフも含まれています。「私も不登校だったから。みんなの気持ちが分かる」と、かつて同スクール開設のきっかけとなった元アルバイトの女性も、今ではスタッフとして子どもたちに勉強を教えています。

かつて当事者だったスタッフが教えることで、生徒たちにも大きな安心感を与えている
同スクールにおける次の課題は、子どもたちがフリースクールを卒業した後の「働く場づくり」です。現在、中学生が多く在籍しており、その大半がアルバイトを希望しています。そこで、就労に向けた独自のプログラムを作成、連携する商業施設内のテナントとも協力し、アルバイトとして採用してもらえるような仕組みを構築しています。
フリースクールを開設して約1年半が経過しようとしています。北海道済生会は、今後も小樽市の新たな地域資源となり、より多くの不登校児の受け皿になることを目指しています。













