シンポジウム
インクルーシブ社会を目指して
〜ソーシャルインクルージョンとSDGsのまちづくり〜
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Let’s SINC
インクルーシブ社会を確立するために、誰一人取り残さない地域をどのようにつくっていけばいいのかをみんなで考えよう
現代社会において、大きな課題となっているインクルーシブ社会の実現。貧困や障害、いじめなど、さまざまな理由によって生まれる社会的孤立は、この数年間続く新型コロナウイルス感染症の流行によって、さらに浮き彫りになり、深刻さを増しています。では、誰一人取り残さないというソーシャルインクルージョンが根付いたインクルーシブ社会は、どうすれば確立することができるのでしょうか。
2022年11月16日、済生会は、シンポジウム「インクルーシブ社会を目指して~ソーシャルインクルージョンとSDGsのまちづくり~」を開催。全国各地の企業、行政、医療機関などから、約210人が集まり、インクルーシブ社会の確立を目指す先進事例を学びました。
誰一人取り残さないまちづくりのために、わたしたちが取るべきアクションとは。シンポジウムを振り返りながら、インクルーシブ社会において、これから求められる事業のあり方を考えます。
「インクルーシブシティ東京の実現
-『誰一人取り残されない都市』に向けて-」
東京都知事 小池 百合子 氏 記念講演
東京都では、全国の自治体に先駆けて、「都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例」を2019年に制定いたしました。ソーシャルファームとは、自律的な経済活動を行ないながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と一緒に働いている社会的企業のことです。2022年10月現在、27の事業所を認証し、最長5年にわたる運営費の補助や専門家によるコンサルティングなどを行なっています。東京都からソーシャルファーム創設の後押し、ムーブメントの喚起をすることで、ソーシャルインクルージョンの輪をさらに広げたいと考えています。
「多様性と調和」を基本コンセプトに掲げた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、ソーシャルインクルージョンを一歩先へと進める大きな契機となりました。女性選手の比率は過去最高、性的マイノリティの選手も多く活躍しました。また、人権尊重条例の制定やユニバーサルデザインのまちづくりの加速など、大会を経て、「多様性と調和」というレガシーは社会と街、そして人々の中に着実に根付いています。「段差」のない社会に向けて、物理的、制度的、心理的な数々のバリアを取り除くことはとても重要です。まさに多様性は、可能性。東京都は、あらゆる面で「段差」のない社会を創り上げ、「人」が輝く未来へ導いていきます。
東京都は、コロナ禍からただ戻るだけではなく、持続可能な回復、すなわち「サステナブル・リカバリー」を掲げ、誰一人取り残されない社会の実現を目指しています。現在を生きる我々全員が、それぞれが抱える困難を乗り越えた先に、持続可能で豊かな暮らしを築き、明るい未来をつかむことができるよう、東京をよりインクルーシブに、さらにサステナブルに、成熟した都市へと進化させていくことが都知事としての私の務めです。皆さんも希望をもって、そんな未来を思い描き、一人ひとりが、できることから行動していただきたい。自分たちのより良い未来を創るのは、他の誰かではなく、私たち自身です。ぜひ、一緒に取り組んでまいりましょう。
「インクルーシブ社会を目指して
~ソーシャルインクルージョンとSDGsのまちづくり~」
パネルディスカッション
「旅する桑畑 ソーシャルインインクルージョンとSDGs 2030の街づくり」
社会福祉法人パステル理事長 石橋 須見江 氏
私たちパステルは、障害のある方の「自立へのステージ」となることを目指し、栃木県を中心に、生活介護事業や就労継続支援B型事業を行なう多機能型事業所、障害者支援施設、グループホーム、相談支援センター、障害児通所支援事業所などを運営しています。
1997年の創業時から、「誰一人取り残さない」ことを目標としてきました。障害のある方々の保護者やご本人からの相談はすべて受け入れ、利用者の個性の発見と心の安定・経済的自立を目指し、働く場を増やす活動を続けています。
私どもが拠点を置く栃木県小山市では、養蚕農家と桑畑の減少が課題となっていました。そこで、生活介護事業と就労継続B事業を行なう多機能型事業所「CSWおとめ」で、桑の6次産業化を行なう「桑のミクスプロジェクト」を発足。約500名の利用者が自立するための具体策として、楽しく働く、元気に遊ぶ、豊かに住むことを実践しています。こうした活動は、社会福祉法人の中だけでは経営できません。自治会をはじめ、地域の皆さんとパートナーシップを組みながら、地域とともに経営することで、法人もさらに発展することを実感しています。
「『ともに働く、ともに生きる、地域をつくる』~協同労働という働き方と労働者協同組合法~」
日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会専務理事 田嶋 康利 氏
私たち日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)は、企業や団体に雇用されて働くという一般的な働き方である「雇用労働」とは異なり、働く人たちが協同で出資して事業経営を担う「協同労働」を行なう協同組合です。協同労働を通して、一人ひとりの人間的な成長と持続可能な地域づくりを目指すことを原理原則に置いています。
この協同労働の協同組合が、2020年12月に労働者協同組合法として成立しました。それ以降、労働者協同組合を立ち上げたい、協同労働を生かして働きたいという相談が300件近く寄せられています。その相談の多くは、障害な社会的に困難な状況にある人たちと制度の利用者としてではなく、ともに働き経営する団体をつくれないかという内容です。また、離島や山間地で、移動サービスや配食サービスなどの生活支援を始めたりといったような、地域住民で自分たちの暮らしを支え合うための事業を労働者協同組合として立ち上げた事例もあります。障害や困難のあるなしにかかわらず、ともに働くことを軸にしながら、誰もが安心して暮らせる地域をどのようにつくるか。自立支援は、地域の貴重な人材の発掘でもあると考えながら、困難な状況にある当事者が地域づくりの主体者になるような活動を今後も続けていきたいと思います。
「北海道済生会のソーシャルインクルージョン実現に向けたまちづくり活動」
北海道済生会 常務理事 櫛引 久丸 氏
私たちが運営する「済生会ビレッジ」は、医療福祉機関、行政、企業などが連携して掲げる「ウェルネスタウン構想」に基づき、2021年に商業施設「ウイングベイ小樽」に開設した市民のための健康・福祉ゾーンです。地域住民の健康をサポートするウエルネスチャレンジ事業やフードバンク事業を行なうほか、地域包括支援センターや訪問看護ステーションなどの機能を持つ「北海道済生会地域ケアセンター」や発達支援事業所などの機能も備え、住民の方の困りごとや地域課題を解決するためのさまざまな事業に取り組んでいます。
特に発達障害等支援事業は、専門性の高い支援体制を整備し、子どもから大人になるまで、生涯にわたっての継続的支援や訪問支援にも力を入れています。こうした複合型の多機能な事業を行なっている事業所は、道内でも現在2カ所のみです。児童発達支援・放課後等デイサービスなどを提供する「きっずてらす」は開設前から評判を呼び、4カ月でフル稼働となりました。足を止めることなく、2022年3月には、2施設目となる「きっずてらすDUO」を新設。地域で唯一、医療的ケア児の通所サービスをはじめました。2023年には、「就職」が視野に入る中高生への支援のために、就労支援特化型の「きっずてらすJOB」の開設を目指しています。
また、過疎地域支援・活性化事業では、「農福連携」として、済生会で初めてとなる体験型農場を「小樽老人保健施設はまなす」に作りました。ブルーベリーなどの栽培・加工を住民参加型で行ない、持続可能な農場経営に取り組んでいます。こちらは、障害者などの雇用創出でソーシャルファームとも連携づけていきます。私たちはすべての事業を通して、インクルーシブな社会の実現に向けて、可能性の追求を続けています。
「病院が地域で『まちづくり』を展開する『病院の新しいカタチ』」
済生会中央病院 広報室長 佐藤 弘恵 氏
この会場のすぐ隣にある当院は、高度急性期病院として救命救急センターを持ち、治療とケアに専念しながら、ご家族やかかりつけ医などとも連携を取り、治療後の生活の場へと患者さんをつないでいく、「治し支える医療」に取り組んでいます。
2020年にスタートした新たな5ヵ年計画「ビジョン2024」に掲げている指針のひとつが、ソーシャルインクルージョン計画の推進です。これまで、約50年にわたって東京都立民生病院を受託運営し、その後も機能を継承してホームレス専用病床を整備しているほか、更生保護施設入所者 への保健・診療活動など、強みである医療・保健活動を中心として取り組んできましたが、2022年からは、さらに新たな展開を広げています。
患者さんの利便性を考えた職員の声が発端となって、全国初となる病院内のユニクロ店舗のオープンが実現しました。そのほか、港区が運営する養蜂によるまちづくり事業「芝BeeBee’s」と連携した「みんなとプロジェクト」では、行政や企業などの地域団体、港区の就労継続支援B型事業所などとともに、芝地区で生産したはちみつ「しばみつ」を使ったマドレーヌの製造を行なっています。2022年12月に特定非営利活動法人 虹色の風とコラボし、医療機関では初の開催となる「障がい者アート『虹のアート展』」を院内ロビーで開催いたしました。病院がまちに出て、協力団体とのネットワークを築きながら、こうした活動を病院のブランドにしていくことを目指しています。
インクルーシブ社会を目指して
〜ソーシャルインクルージョンとSDGsのまちづくり〜
済生会 理事長 炭谷 茂 氏 基調報告
インクルーシブ社会とは何なのか、どのようにつくればよいのか、今日は皆さんと一緒に考えていきたいと思います。まず、社会的課題の解決には、事業だけではなく背景を見る必要があります。例えば、昔も虐待や認知症は存在していましたが、50年前と今とでは深刻さがまったく違います。その原因として、親族や地域の一員としての保護が弱まったことによる社会的孤立・排除の進行、貧困層の拡大と蓄積、情報社会の進行によって他者との濃密な関係を拒む傾向などがあります。人権啓発だけでは不十分で、仕事、教育、日常生活支援、余暇活動など、具体的な活動・事業で人の結びつきを強化していくことが必要。そのためには、永続的で効果的なまちづくりを目指すことがベストだと考えています。生活困窮者への支援から発足した済生会では、何よりも人と人の結びつきの形成、まちの活性化、住みやすいまちの実現への取り組みを全国各地で実現していきます。
現在の日本は、インクルーシブ社会やソーシャルインクルージョンという言葉が浸透していく途上にありますが、具体的な事業や課題を見ていくと、地域に住む誰もが深く関係していることに気がつきます。シンポジウムで紹介された活動が持続的に展開されていくだけでなく、地域の課題に応じた新たな取り組みが生まれることで、“誰一人取り残さない”社会の実現に近づくのではないでしょうか。一人ひとりがインクルーシブ社会を求める気持ちが実現を後押しします。