障害をもつ人たちが自分らしく暮らせる地域社会をつくる
2023.08.25

本人の意思決定に寄り添い
障害をもつ人が暮らしやすい社会をつくる

大阪 障害者支援施設 ふくろうの杜
Let’s SINC
障害をもつ人の「意思決定」を支援し、本人が望む地域生活の実現をサポートする

誰もが当たり前に「自分らしく」生きられる社会?

障害や病気を抱えている人、独り暮らしの高齢者、貧困家庭の子どもなど、社会的に弱い立場にある人も含め、誰もが地域の一員として共に生きていくインクルーシブ社会の実現が必要とされています。

障害者や障害児の基本的人権を守り、個人が望む生活を支援する方法などを定めた障害者総合支援法では、障害者本人が希望する住まいや就労をサポートし、地域生活につなぐ“地域移行“が謳われています。住まいや働きかた、そのほか暮らしにまつわるさまざまな側面で、障害をもつ本人の“意思”を尊重し、自身で生き方を選択できる地域社会をつくっていくことが求められているのです。

大阪の大正区にある障害者福祉施設「ふくろうの杜」。中~重度の障害を抱える人が生活する入所部門と通所部門を運営しています。施設が大切にしているのが、一人ひとりの声に耳を傾け、本人の希望を支える「意思決定支援」。取り組みについて同施設の施設長・町原誠治さんにお話を伺いました。


障害者福祉施設「ふくろうの杜」施設長 町原誠治さん

“地域にひらく”障害者支援施設

ふくろうの杜は「地域に障害者支援施設をつくりたい」という市の意向で2002年に済生会初の知的障害者更生施設として設立。2012年からは身体障害、精神障害など、受け入れる障害の幅を広げ、生活介護や自立訓練などを行なう「障害者支援施設」と名称を変更し、今年で20年目を迎えます。

障害者支援施設ふくろうの杜。利用者の平均年齢は45〜47歳と高齢化が進む

施設の定員数は通所・入所各50人、短期入所5人。2023年現在は 約100人が在籍し、60人の職員が一人ひとりの個別支援計画に基づいた支援にあたっています。入所では、知的障害、身体障害、精神障害などを抱える人が施設で生活。通所では工賃を支給する作業(おしぼり用タオルたたみ、機械部品用のボルトとナットを組み合わせる、工具部品のワイヤーを束ねるなど)やレクリエーションなどを行なっています。

意思決定への第一歩「特別な一日」

”個別支援計画”とは、「こぼさず食べる」「歯を上手に磨く」「他の人と関係をつくる」「排泄の自立を目指す」など、それぞれに合わせて作成したプログラムのこと。この個別計画に加え、ふくろうの杜では、意思決定支援の一環として利用者さんの“やってみたい”を実現する独自プログラム「特別な一日」を実施しています。普段とは違った環境で過ごし、気分のリフレッシュを図るだけなく、職員が一緒に時間を過ごすことで本人の興味や関心がどこにあるのかを探り、今後の支援計画に生かしています。

「たとえば、『絵を描きたい』という人は、車で万博記念公園まで遠出し、思う存分風景画を描いてもらったり、自動車のチラシに興味を持っているなと感じたら一緒に自動車を見に行ったり、お寿司が大好きな人は、外食へ行ってお腹いっぱい食事をしてもらったり……。個別に興味や関心のあることや希望などを聞き取り、利用者さんの希望に沿った一日を計画します」と町原さん。
「自らの希望を実現する」—―そんな小さな意思決定を重ねることが、自立への意識につながる第一歩になるといいます。

「お天気のいい日に釣りをしたい!(特別な一日での出来事)」

「おでかけして大好きなおすしを、一人でおなかいっぱい食べたい(特別な一日での出来事)」

「親なきあと」も安心して地域生活を送るために

障害者の地域移行には「家族の存在」も大きく関係しているといいます。親の高齢化や病気、死別等により世話ができない状況になってしまういわゆる“親なき後”問題。障害をもつ人の生活を家族だけで支えるのではなく、さまざまな機関が連携して見守りやサポートを行なうこと、また、住まいの選択肢を増やすことなどが差し迫った課題となっています。

障害者施設への入所は子どもを「見離す」「手放す」といった考え方がいまだに根深いと語る町原さん。
「でも、施設での生活を満面の笑みで楽しむ我が子を目にして『こんな笑顔を見るとやっぱり生んでよかった』と話してくれる人もいます。また、施設で生活する中で家庭内で見られていた課題が専門職のアプローチで改善することもあります。職員一同やりがいを感じる瞬間です。障害をもつ人の生活の場として本人の希望を尊重しながら楽しく安心して暮らせるように支援し続けることが、私達の使命だと考えています」(町原さん)


新型コロナで開催できなかったクリスマス会を実施

サポートを受けながら“自立”が叶う「グループホーム」

障害をもつ人の“自立”に欠かせないのは、自らの希望に沿った住まいの選択です。 その中で重要な役割を担っているのが、必要な支援を受けながら地域で暮らすことができる「グループホーム」です。

ふくろうの杜が運営するグループホーム「かばの木」。中~重度の障害を持つ8人が、日常生活の支援を受けながら市営住宅の数室で共同生活を送っています。 暮らしを支えるのは、5人の世話人と2人の支援員。世話人の役割は、主に生活面・金銭面・健康面などの管理を行ない、グループホームでの暮らしをそばで見守ります。医療・福祉の現場で経験を重ねた人から他業種で働いていた人まで経験はさまざまで、利用者さんにとって家族に近い存在です。

支援員は日中、ふくろうの杜の通所部門に勤務し、利用者さんの入浴や排せつ、食事の介助といった生活全般をサポートしています。夕方になると利用者さんと一緒にグループホームに移動し、利用者さんの日中の状況を世話人と共有。支援員から世話人へ、日中の様子を踏まえて夜間のサポートに引き継ぐことで一貫した生活支援を行なっています。

利用者さんの高齢化にも対応しています。日中はふくろうの杜に通所し、夕方から朝にかけてかばの木で共同生活援助を受けることができますが、高齢により介護が必要になると24時間のサポートを提供するふくろうの杜へ入所することも可能。ライフステージや状況に応じて住まいの選択ができるのも施設がグループホームを運営する大きなメリットです。

グループホーム「かばの木」。世話人(写真左)は、利用者さんの様子で気になる点などを
ふくろうの杜の支援員に相談しながら夜間のサポートを行なう

365日、障害者の地域生活を支える

ふくろうの杜がある大正区は、高齢化・出生率の低さで大阪市内24区のうち最も人口が少ない一方、障害者手帳の取得率は横ばいです。

「特に高齢化や重度化、強度行動障害などの課題を抱える人に対し、365日支援できる施設入所へのニーズに応えることが大切だと考えています」と施設長の町原さんは話します。

「地域に障害者支援施設を」という願いで開設され、地域の障害者を支え続けてきた同施設。開設から20年にわたり大正区指定の福祉避難所として地域の障害事業所連絡会に参加したり、泉尾医療福祉センターの福祉施設が合同で行なう「なでしこ祭」に地域住民を招いたりと、施設への理解を深めるため地域との交流を続けてきました。

「障害をもつ人たちが自ら望んだ土地で安心して生活を送るためには、地域全体の障害への理解を深めることが欠かせません。そのために、これまで地域との接点を増やし、顔の見える関係性を築いてきました」と町原さん。 障害の度合いやライフステージに合わせて自分らしい生き方を地域の中で選択できること。そして、その一人ひとりの選択を地域全体でサポートできる地域づくりが今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。

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