アート活動をきっかけに、
障害者福祉と地域がつながる
2025.12.12

「ひまわり事業団」のアート活動で広がる、
障害のある人の“自分らしさ”と地域との交流の輪

静岡 NPO法人ひまわり事業団/静岡済生会総合病院
Let’s SINC
アート活動を通して障害者福祉施設と地域のつながりを深め、誰もが自分らしく生きられる地域社会をつくる

2026年の済生会手帳にひまわり事業団の作品が採用!

社会福祉法人恩賜財団済生会は、ソーシャルインクルージョンの考えのもと、2025年版から職員用に配布する済生会手帳の表紙デザインに、障害のある人によって制作されたアート作品を採用しています。

第2弾目となる2026年版の手帳の表紙は、静岡市駿河区で障害者福祉サービスを提供するNPO法人ひまわり事業団の利用者が描いた作品に決定しました。

長年、地域で関わりがあったひまわり事業団と済生会ですが、この手帳の製作をきっかけに、ひまわり事業団で取り組んでいる「アート活動」を中心としたさらなるつながりが生まれています。

(左)2025年版の済生会手帳は「済生会発達支援事業所きっずてらす」(北海道)の子どもたちが描いた絵や文字をもとにした「小樽フォント」を採用。全国に広がる「ご当地フォント」についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。(右)ひまわり事業団の作品が採用された、2026年版の済生会手帳

静岡市の障害者の生活を支える「ひまわり事業団」

ひまわり事業団は、1978年から地域で始まった障害者福祉に関する複数の活動が統合され、2003年に設立されました。2025年現在、障害のある人の地域での自立した生活をサポートする「静岡障害者自立生活センター」や、障害者の就労を支援する就労継続支援B型事業所「それいゆ」、幅広い年代の障害者が集まってイベントや外出などを楽しむデイサービスである生活介護「さにぃ」など、さまざまなサービスの提供や支援を行なっています。

ひまわり事業団の本部であり1979年に設立された「静岡障害者自立生活センター」では、地域での自立生活を目指す障害者が、他の障害当事者からもサポートや情報提供を受けることができる

このひまわり事業団は、1984年から、近隣にある静岡済生会総合病院の患者用駐車場管理業務(駐車場誘導や駐車料金回収等)を受託しています(受託当時は、前身である「ひまわり労働センター」)。

設立当初から「障害があっても、地域の中で働きながら生きていきたい」と思う障害者の生活を支えるひまわり事業団と、地域に密着した医療・福祉を提供してきた同院による連携は、現在まで40年以上続いています。

利用者の“やりたい”を引き出すアート活動

ひまわり事業団の就労継続支援B型事業所「それいゆ」と生活介護「さにぃ」では、2012年頃から事業所内で「描く」という活動が小さく始まりました。

そのきっかけは、それいゆに通うある利用者の「絵を描きたいんだよね」という一言。

そこでそれいゆでは、それぞれの利用者が互いの良さを認め合える場を作るため、2017年から作業の合間に絵を描くことを中心としたアート活動が始まりました。利用者が、この活動を通してさまざまなものや人に触れて、自ら“やりたい”“表現したい”と思うことを見つけられる環境が作られています。

さらにその6年後には、さにぃでも、近隣の学生など地域の人とも関わりながら、絵を描くことだけではなく、ものづくりを含めた幅広い表現活動が行なわれています。

それいゆの建物内にはいたるところに利用者の作品が飾られている 

障害がある人もない人も、アートワークショップで自分らしい表現を探求

そういったアート活動を地域住民に知ってもらうため、2018年からはアーティストを招いてのワークショップを毎年開催。2025年7月31日にそれいゆで行なわれた「こども in Wonderland 日常」では、それいゆ・さにぃの利用者35人と、デザイナーのウエダトモミさんと版画摺師(すりし)のホシノマサハルさんによるアーティストユニット「BOB ho-ho(ボブホーホー)」を中心としたワークショップに、地域の子どもなど約30人が参加しました。

イベント当日は、参加者全員で大きな段ボールや空き箱、木材、茶筒などさまざまな素材に絵を描いたり、模様がくりぬかれた版を用いて、布や段ボールに直接インクを刷り込むシルクスクリーンプリントを楽しんだりと、参加した地域の子どもたちは普段触れることのない表現方法に夢中になっていました。

当日はそれいゆ・さにぃの職員やBOB ho-hoが協力し、子ども・利用者一人ひとりの発想に寄り添って創作をサポート

それいゆ・さにぃが企画するワークショップは、障害がある人もない人も、大人も子どもも、同じ空間の中でそれぞれが自分のものづくりに没頭できる場になっています。画材や道具を共有したり、隣の人の表現方法を少し意識したりしながら、参加者一人ひとりのものづくりが進められていきます。「やってあげる」「やってもらう」という関係ではなく、利用者と地域の人々が対等な関係性の中で交流が行なわれ、お互いの存在や表現を認め合うことができる場が作られているのです。

さにぃ職員の鈴木梨可さんは「今後も利用者さんが、他者との関わり合いの中で自分らしく表現できる場づくりを大切にしたい」と語ります。またワークショップに参加したアーティストユニット、BOB ho-hoのウエダトモミさんは、参加者との創作の直後、「地域の人に見てもらえる展覧会など、発表の機会を増やしていきたい」と絵具だらけの手とエプロン姿で嬉しそうに話していました。

手帳の表紙に込められた「無限にありがとう」

障害のある人の“表現したい”という思いと、地域住民とのつながりを大切にしたひまわり事業団のアート活動。静岡済生会総合病院がこの活動を済生会本部に推薦したことがきっかけとなり、それいゆ・さにぃの利用者とBOB ho-hoの協働によるアート作品が、2026年版済生会手帳の表紙に採用されました。

手帳の表紙デザイン。手帳用に新たに制作された作品で、大きな段ボールを土台に、下地を絵具で塗る人、下地の上からマーカーでイラストを描く人など、複数の人がそれぞれの役割を担当しながら作品が出来上がったそう

ひまわり事業団の利用者や職員の中には、静岡済生会総合病院、および病院隣接の静岡済生会療育センター令和で医療を受ける人も多いため、済生会施設への長年の感謝の気持ちをこめて、イタリア語で「Grazie infinite(無限にありがとう)」という言葉が描かれています。

ひまわり事業団、済生会の手帳のコラボをきっかけに

この手帳の製作をきっかけに2025年6月に静岡済生会総合病院で開催された「済生会フェア’25」では、それいゆ・さにぃの利用者がさまざまな絵や柄を描いた布を使って、オリジナルの缶バッジを作るワークショップが開かれ、約50人が参加しました。それいゆで行なわれたアートワークショップと同様、障害の有無を問わず、参加者同士で交流しながらものづくりが行なわれました。

このほかにも、静岡済生会総合病院内では、2025年10月から2026年3月末までひまわり事業団の利用者による作品の展示を開催。ひまわり事業団と済生会の連携が深まることは、施設の利用者や職員と地域住民の交流の場がさらに増え、障害のある人が自分らしく生きられる地域づくりへの大きなきっかけとなります。利用者一人ひとりの表現を大切にするアート活動を通じて、地域と福祉がつながる新しい可能性が、まさに今広がっています。

参加希望者の行列ができた「済生会フェア’25」でのワークショップ。今後も済生会、そして地域全体とひまわり事業団のさらなる交流が期待されます

 

 

(機関誌「済生」2025年9月号 「交差点」より)

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