よくわかる!「日本の障害者支援」——障害のあるなしに関わらず誰もが地域で暮らせるように

障害のあるなしに関わらず、誰もが自分らしく生きる社会。日本の障害者福祉は、合理的配慮の義務化(2024年)や就労選択支援の開始(2025年)など、社会全体で誰もが生きやすい共生社会の実現を目指して進化し続けています。しかし、その根幹をなす「障害者総合支援法」や、その他の関連法律・制度の全体像を把握するのは簡単ではありません。この記事では、障害福祉を支える法律の歴史から、具体的な支援サービス、そして最新の政策動向まで、分かりやすくお伝えします。

炭谷 茂[監修]

1. 医学モデルから社会モデル統合モデルへと変化する日本の障害者福祉

日本の障害者施策は、戦後の復興期から本格的に始まりましたが、当初は、障害を個人の病気や欠陥と捉える“医学モデル”が主流でした。この考え方では、支援の目的は「障害を治療・克服する」か「施設で保護する」ことにありました。

しかし、時代が進むにつれて、「障害は、社会の側にある物理的・心理的な障壁によって生み出される」という“社会モデル”の考え方が国際的に広まります。施策もそれに伴い、「施設への収容」から「地域での自立した暮らし」を支える方向へと徐々に転換していきます。

さらに近年では、“社会モデル”の課題点として、個人の状態に合わせた支援が軽視されがちになること、また自立を促進する中で、すべての人に完全な自立が理想であるかのように捉え、多様なサポートを必要とする人々の実情を無視する危険性などが指摘されるようになりました。これを受け、2001年に策定されたICF(国際生活機能分類)をもとに、“医療モデル”の視点と“社会モデル”の視点の両面を必要とする“統合モデル”が唱えられ始めました。

これにより、障害者の生活に十分配慮しつつ、社会に積極的に参加してもらうための、個別的かつ多角的な支援が進められるようになり、「ソーシャルインクルージョン」の動きが広がっています。より詳しく日本の障害者福祉の歴史を見ていきましょう。

日本の障害者福祉の変遷

戦前

戦前:日本で初めての福祉的な施策「恤救規則」

日本の障害者福祉の始まりは、明治政府による「恤救規則(身寄りのない貧しい人々を救済する制度)」といわれています。ただし、恤救規則の目的はあくまで貧困からの救済であり、現在の障害者福祉のような、障害者の社会参加や権利擁護の視点は含まれていませんでした。

戦後

戦後:行政による障害者福祉サービスの幕明け

福祉三法の制定を基に、国の障害者福祉サービスが始まりましたが、施策の対象は主に身体障害に限定され、知的障害や発達障害など、多くの障害者が支援の対象外でした。

福祉三法
日本国憲法の制定により生存権が明確化されたことを受けて制定された、「生活保護法(1946年)」「児童福祉法(1947年)」「身体障害者福祉法(1950年)」の3つの法律の総称のこと。

60-70′

1960~70年代:施設入所のハードルが下がり社会との隔絶が広がる

国民年金法に基づく無拠出制の「障害福祉年金」や、一般就労への促進を図る「雇用促進法(1960年)」が制定され、支援が拡大。今まで対象とされていなかった知的障害者への支援を行なう福祉施設の整備が進んだことなどから、施設入所者が増加しました。

東京パラリンピック(1964年)
東京オリンピック(1964年)にあわせて開催された東京パラリンピックを契機に、身体障害者のスポーツの振興に関して国民的な関心を集めるとともに、障害者の社会参加についても社会的関心が高まりました。

80-90′

1980~90年代:ノーマライゼーション隆盛の時代

1970年代から、アメリカや北欧を中心に、国際的に普及・浸透していた「ノーマライゼーション」の理念を日本が受け入れるようになったのがこの時代です。入所施設を多く建設する“設置推進政策”から改め、“在宅サービス”や“小規模作業所”、“自立生活運動”が拡大していきました。

また、1990年には、アメリカで世界初の障害者への差別を禁止する法律として「障害のあるアメリカ人法(ADA)」が制定され、これに続いて世界各国で障害者差別禁止法が整備されるなど、差別問題への対策が始められた時代でもあります。

身体障害者福祉法の改正(1984年)
国連の「障害者の権利宣言(1975年)」の採択と、それに続く「国際障害者年(1981年)」の国際的な動きを受け 、「国連・障害者の十年(1983年~1992年)が始まりました。この「十年」は、それまでの保護・恩恵の対象としての障害者像から、参加・平等に活動する権利主体としての障害者像への転換を迫るものであり、障害者福祉政策の充実を促しました。
この影響を受け、日本では身体障害者福祉法が改正され、障害者の自立・社会参加促進が初めて法律に明文化されました。

00-10′

2000~10年代:「統合モデル」の登場

2000年代に入った後も、「交通バリアフリー法(2000年)」や「身体障害者補助犬法(2002年)」の成立。従来の盲学校、ろう学校、養護学校が特別支援学校に一本化した2007年の「学校教育法」の改正など、“社会モデル”に基づく政策が進められる中で、国際的には新たな枠組みが定義され始めます。それが「統合モデル」です。

「統合モデル」
2001年、国連で策定された「ICF(国際生活機能分類)」を基に、障害を個人の問題として捉える「医学モデル」と、社会のあり方に起因するとする「社会モデル」の両方の視点を取り入れ、多角的に人間の生活機能を捉える考え方です。

これを受けて日本でも、障害者の自己決定権と選択権を尊重し、利用者本位のサービス提供を目指した社会福祉制度の転換が行なわれ、今日の社会福祉制度へと続いていきます。

障害者総合支援法・児童福祉法の理念・現状とサービス提供のプロセス及びその他関連する法律等に関する理解 (厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 地域生活支援推進室 相談支援専門官 藤川雄一氏)

 

*記事に含まれる情報は記事作成日時点の法律等に基づいています。

2. 誰もが地域で生きるための「障害者総合支援法」の役割

障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)」は、このような変遷を経て、2006年に施行された「障害者自立支援法」をもとに、2012年に施行された日本の障害者支援を支える最も根本的な法律です。この法律は、障害のある人が地域で自立した日常生活・社会生活を送ることを目的としており、その対象は、身体、知的、精神の障害者に加え、発達障害者や難病の患者も含まれます。支援は大きく分けて、以下の2つの柱から成り立っています。

① 自立支援給付:専門的な支援サービス
国が定める基準に基づき、個別のニーズに応じたサービスが提供されます。

⑴ 介護給付

入浴や食事の介助など、日常生活の困難を支援します。

サービス内容:
居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、短期入所(ショートステイ)、療養介護、生活介護、施設入所支援、共同生活介護(ケアホーム)

⑵ 訓練等給付

就労に向けた訓練や、共同生活住居での生活支援など、自立した暮らしを支えます。

サービス内容:
自立訓練、就労移行支援就労継続支援共同生活援助(グループホーム)

⑶ 自立支援医療

医療費の自己負担を軽減します。

サービス内容:
更生医療、育成医療、精神通院医療

② 地域生活支援事業:地域に根差した柔軟な支援
市区町村が地域の特性に応じて、住民の社会参加を促すための事業を柔軟に実施します。

⑴ 移動支援

外出が困難な方の移動をサポートします。

⑵ 日常生活用具の給付

義肢装具をはじめ、生活に必要な用具の購入費用を補助します。

⑶ 相談支援

一人ひとりの生活課題を解決するための相談窓口を設けます。

3. 広がる支援と障害者支援のこれから

障害者支援の政策は、より多様なニーズに対応するため、常に進化しています。ここでは、最近特に注目されているトピックを紹介します。

合理的配慮の義務化(2024年~)
合理的配慮」とは、障害のある人から社会生活上の障壁を取り除くために、企業や学校などが過度な負担にならない範囲で個別の調整や変更を行なうことです。これまでは努力義務でしたが、2024年4月からは事業者に義務化され、誰もが社会に参加しやすい環境づくりが進んでいます。これは、障害者総合支援法が「サービスの提供」という直接的な支援を定めているのに対し、社会全体で「障壁を取り除く」という社会的な側面を定めた「障害者差別解消法」に基づくものです。この2つの法律が、両輪となって地域共生社会の実現を支えています。

就労選択支援の開始(2025年~)
2025年からは、新しい障害福祉サービスとして「就労選択支援」が始まります。これは、働くことを希望する障害のある人が、複数の事業所を体験しながら、適性のある仕事や自分に合った働き方、支援サービスを選べるようにするものです。就労移行支援事業所や就労継続支援事業所などには、「就労選択支援員」が配置され、利用者の希望やスキル、適性を把握した上で、地域の雇用状況や利用できる障害福祉サービスの情報を提供。利用者が最も適していると思われる進路を、自ら選択できるようサポートします。

障害者「65歳問題」
障害福祉サービスを利用している方が65歳になると、原則として介護保険の利用が優先されます。これにより、これまで受けていた障害特性に合わせた支援が受けられなくなったり、自己負担が増えたりするケースがあり、問題となっています。2018年からは、同一事業所において介護保険サービスと障害福祉サービスの両方を提供する「共生型サービス」が始まるなど取り組みも始められていますが、解決に向けた議論が現在も続いています。

まとめ:
多様な人々が自然とつながり合い、助け合う社会へ

障害のあるなしに関わらず誰もが日常生活・社会生活を営むことができるように。また、家族や支援者、地域が連携し持続可能な支援体制が築けるように。日本の障害者福祉は、さまざまな取り組みを通して、障害者が安心して過ごせる支援の形を求め続けてきました。

この流れの先に目指すのは、障害の有無にかかわらず、誰もがその人らしく、安心して暮らすことのできるソーシャルインクルージョンな社会ではないでしょうか。

コラム:支援の対象が広がる! 発達障害と医療的ケア児

近年、障害福祉の分野では、発達障害や医療的ケア児への支援が整備されていっています。

発達障害への支援
かつて、発達障害は「障害」としての認識が遅れていましたが、2004年に「発達障害者支援法」が制定されたことで、支援の枠組みが大きく前進しました。その後、2013年には、障害者総合支援法の対象に明確に位置づけられ、自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動性障害(ADHD)のある人も、個々の特性に応じた福祉サービスを利用できるようになりました。

医療的ケア児への支援
人工呼吸器や経管栄養など、日常的に医療的なケアが必要な子どもたちへの支援は、いままで、家族が担うことが多かったのですが、2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行されました。これにより、自治体や関係機関が連携し、家族だけでなく地域全体で子どもを支える体制が整備されることになりました。

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