愛情を受けて育つ喜びをすべての子どもたちに!
2023.04.24

すべての子どもが健やかに育つために。
子どもと里親の架け橋となる「里親支援専門相談員」とは?

静岡 川奈臨海学園
Let’s SINC
さまざまな事情から親と離れて暮らす子どもたちと里親をつなぎ、地域全体で家族の支援を行なう

里親制度を知っていますか?

みなさんは、「里親」という言葉を聞いたことがありますか? 

言葉は聞いたことがあるけれど、実際に「里親」がどういうものなのか知らない、また「子どもに恵まれなかった夫婦や、経済的に裕福で社会貢献を希望する人がなるもの」といった少し偏った理解をしている人もいるのではないでしょうか。

深刻な少子化のなかでも、日本には親の病気や経済困難、虐待などが理由で、生みの親と暮らせない子どもが約4万2000人(2020年時点)いるといわれています。こうした子どもたちを家庭に迎え入れ、一般の家庭の中で養育する制度が「里親制度」です。

養子縁組が戸籍上も親子関係を結び、「法的」にも親子関係となる一方で、里親はそうではなく、特別な資格は必要ありません。子どもに適した住環境等の要件を満たしていればなることができます。

しかし、全国に約600カ所ある乳児院や児童養護施設で育つ子どもが約2万3600人と全体の約56%を占めるのに対し、里親のもとで暮らす子どもは約8000人。日本ではまだ十分に浸透していないのが実情です。

静岡県伊東市にある済生会唯一の児童養護施設・川奈臨海学園

ある日、突然始まる子どもとの暮らし

静岡県・伊東市にある児童養護施設・川奈臨海学園で働く、里親支援専門相談員の鈴木志穂さん。里親と子どもたちをつなぎ、里親の元で子どもたちが元気に過ごせるようにサポートをしています。

同学園では、児童相談所の里親担当職員や児童家庭支援センターなど、さまざまな機関と連携。鈴木さんは、 家庭訪問や電話相談、里親宅に外泊する短期里親制度(週末里親)の調整、さらに地域の人に向けた里親相談会や里親サロンなどの企画運営なども行ないます。

竹居昭子施設長(写真左) と里親支援専門相談員・鈴木志穂さん(中央)、家庭支援専門相談員・鈴木 一大さん(右)

「私は里親に関する知識が少なく、まず『里親』を知るところから始めました。知っていく中で里親さんの思いや悩みに共感することがとても多かった」と鈴木さん。

子どもたちがちゃんと自立できるように子育てをしたい、実親さんの元で得られなかった愛情のある暮らしをさせてあげたい……「里親になりたい」と希望している人の思いを耳にするたびに、これまで子どものすぐそばで支援を行なってきた経験を里親家庭の支援に活かせないかと考えたと話します。

「実子の子育てと大きく違うのは、“ある日、突然子どもとの生活が始まる”ということです。子どもと生活を共にしているとさまざまな問題にぶつかります。手当をもらっていることが逆に負い目となって、悩みが相談しにくいと話す里親さんもいます」(鈴木さん)

そのため、日常の中で起こるさまざまな子育ての問題を家庭の中で抱え込んでしまわないよう、家庭訪問や電話相談など、里親とのやりとりは綿密です。

「児童養護施設であれば、専門知識があるスタッフが複数人でその子をサポートできます。しかし、里親は家庭内で解決しなければいけません。だからこそ相談しやすい関係を構築することが大切です」と鈴木さんは話します。

保育士とともに子どもと遊ぶ鈴木さん

“育てにくさ”を里親まかせにしない

親の元で愛情を受けて育つことができなかった子どもたちには、成長過程で何らかの問題が生じることが多いといいます。発達障害知的障害との狭間で学習に困難を抱えたり、ADHD(注意欠陥・多動性障害)を呈して、衝動コントロールが難しかったり、ささいなことでパニック行動が生じてしまう子どももいます。

鈴木さんが担当したある里親さんの話を伺いました。
SちゃんとAちゃん、二人は 6歳と4歳の姉妹です。里親になったのは、これまで子育て経験のない40代のご夫婦でした。お姉ちゃんのSちゃんはこの春ちょうど一年生になる年齢。通う予定だった小学校に行かせてあげたいという実親の思いと、新しいスタートを里親さんがいる環境で始めたいという考えから、施設にいたのはわずか10日間でした。

「二人は保護開始から里親への委託までの期間が短く、スムーズな移行のために、施設の中の一部屋を開放して、里親さんに遊ぶ様子を見てもらったり、食事を一緒にとってもらったりしました。入学式の半月前から里親さん宅に行ってもらい、少しずつ生活に慣れてもらうように支援を行ないました」(鈴木さん)

姉妹が家にやってくることをとても喜んでいた一方で、生活に慣れてくると、二人の試し行動や「子どもと寝るのが初めてで気を遣ってしまい、あまり寝られていない」という悩みが出てきたのだそう。 定期的に電話やメールでのやりとりを継続しながら、 児童家庭支援センターの職員とともに家庭訪問を計画しました。

「私は、里親さんに会うと初めに『ちゃんと眠れていますか?』と聞くようにしています。子育てしている人にとって睡眠はとても大切。しっかり休んでもらうために施設での一時預かりや里親同士のレスパイトの提案をすることもあります。SちゃんとAちゃんの里親さんに不安なところや思いを聞いていくと、『また頑張ります』とほっとした様子でした」(鈴木さん)

川奈臨海学園で過ごす子どもたちの様子

子も宝、親も宝。子育ては地域みんなで

2022年6月からは、伊東市内のショッピングセンターで毎月「里親相談会」を開催しています。里親に少しでも興味を持っている人に対して、里親になるためのプロセスの説明や 里親自身の体力や生活スタイルに合わせた里親活動を希望する相談をきっかけに申請につながったケースもあります。

実際に新生児の体重を感じるため赤ちゃんと同じ体重の人形を抱いてもらい、里親になるイメージを高めるコーナーも

「この相談会で、私が特に意識しているのが、『里親制度は子どものための制度』と、来てくださった方に伝えること。子どもを育てたいと希望する大人のための制度ではなく、子どもが安心して幸せを感じるために大人が受け皿となる制度であることを大前提として必ず伝えています」(鈴木さん)
相談会は好評を博し、2022年12月までに延べ42人が参加しました。

バルセロナ五輪金メダリストの岩崎恭子さんのお母さんを“先輩里親”として講師に招いた講演会

「子は宝(子宝)という言葉があるのなら、親(里親)もまた宝です。この国の宝を地域全体で理解し、受け入れ支え合える土壌を作っていきたい」と語る鈴木さん。すべての子どもが愛情を受けて育つ地域をつくるために、今日も取り組みを続けています。

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